惑溺
 
「松田さん、酔っちゃいました?」

私が鼻をすすったのに気付いた矢野くんがそっとティッシュを差し出してくれた。

私はそれをありがとうも言わず、背を向けたまま無言で取り、遠慮もなく思いきり鼻をかんだ。


その様子を見て、クスクスと矢野くんが笑う。


「松田さんって面白いっすよね。
頼りないのクセに意地っ張りで、放っておけない感じ」

「新入社員の後輩に頼りないなんて言われたくないです」

「だって、頼りないんだもん」

またそうやって、バカにして。
なめられてる、完全に。


生意気な後輩に、なんて言い返してやろうか頭の中で言葉を探したけど、いい言葉がなにも浮かばなくて

仕方なく思いっきり眉間にしわを寄せて矢野くんを睨んだ。
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