惑溺
 
そう思いながらちらちとリョウの方を見ると、不意に顔を上げたリョウと目があった。

軽く首を傾け、見下ろす様にして私を無言でみつめるその瞳は、驚くほど冷たくてぞくりとした。

沙織に向けているのとはまったく違う冷たいリョウの表情に、ずきんと心臓のあたりが痛んで泣きたくなる。


「いつものメイクもいいけど、そういう明るい口紅もいいっすよ。
なんかツヤツヤしてて、さくらんぼみたいで美味しそう。
すげー似合ってる」


リョウに目を奪われてるうちに、さらに近づいた矢野くんの距離に驚いて体を引いた。

「ちょっと矢野くん、近い。
あんまり女の子にグイグイ近づかないほうがいいよ。
勘違いされるよ?」

「別に勘違いされてもいいっすよ。
いや、むしろ勘違いしてほしいくらいの勢いで」

明るく続ける矢野くんの肩越しから、リョウが私を蔑むような表情で見下ろしていた。
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