弟矢 ―四神剣伝説―
そんな弓月の様子を気配で察し、凪は進言する。


「恐れ入りますが、先日申しました通り、婚約は白紙に戻していただきとうございます」

「何ゆえだ」

「ですから状況が……」

「先代の宗主同士が決めたこと。今更覆すことは認めん。今の爾志家の宗主は私だ。おぬしらにも従ってもらうぞ」

「では……現時点で、遊馬の宗主は先代の弟にあたる私ということになります。女子は継承から外れますゆえ。一門の婚姻に関する取り決めは、私に一任されるはずです」


凪は盲目である。

それに、これは亡くなった先代宗主、凪の兄しか知らぬことだが、彼には失明以外にもう一つ後遺症があった。子を為せない、ということ。それは、後継者としては甚だまずいものだ。


『一旦、凪先生が宗主となり、姫がご夫君を迎えられた後、あらためて決められてはいかがでござるか?』


事件直後、そういった折衷案を出したのは長瀬だ。

女の弓月では宗主に立てない。そういった場合は、一門で最も武門に秀でた男を夫に迎え、後継者に立てたという、前例があった。

今回の場合、正三や新蔵にその役目が与えられそうだ。しかし、正式に結納を交わした一矢の存在も大きい。生死が不明とはいえ、決して蔑ろにはできない。

しかし、彼自身の体の事情以外にも、凪には思うところがあった。

最終的には、宗主の代行という形で、弓月を押し立てた。


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