弟矢 ―四神剣伝説―
無論、不安はあった。自分の身ではなく弓月のことだ。もし、一矢と二人きりであるなら、どれほど止められても後をつけて行っただろう。

だが、弓月と一矢の経緯を知っている凪に、従うと言われては、逆らう理由はない。


『関所に不審な動きがあれば、すぐに戻って参る。それまで、里の皆を守ってやって欲しい。頼んだぞ、正三』

『こちらのことより、姫様ご自身のことをお考え下さい。くれぐれも、凪先生のお傍を離れませんよう』


そこまで言うと、途端に正三は声を潜め、弓月の耳元で囁いた。


『――乙矢は必ず戻って参ります。奴は、姫様のためなら勇者になり、あなたを失えば、鬼になるでしょう。どうか、何があっても奴を信じてやって下さい』


突然、乙矢の名を出され、弓月はたじろいだ。


『正三、それはどういう……』


弓月の問い掛けを目で制し、正三は後ろに下がる。一矢の視線を感じたからであった。
 

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