弟矢 ―四神剣伝説―
弓月らを見送ってから、正三は里の中をくまなく歩き、今は里の外側を徘徊している。

この里に入って、多くの人間の様子が変わった。以前と同じなのは、弓月と凪、それに乙矢と……正三は自分の名を加えた時、共通点に気がついた。

皆、四天王家、勇者の血を引く者だ。一矢はともかく、偶然にしてはできすぎている。


この里に皆を誘導したのは一矢だ。そして、乙矢はこの里の存在を知らなかったと言っていた。だが、高円の里が五十年ほど前、地すべりに遭ったのは事実である。そう、里の年寄りも証言していたはずで……。


太陽は真上を過ぎ、気温も上昇していた。弓月が体を洗った小川の水は、光を反射して煌いている。水面の瑞々しさとは違い、大気は、気だるさを誘う中途半端な熱気を含んでいた。まるで、ぬるま湯の中を泳ぐような、息苦しさも感じる。

この里に着いてから、正三はほとんど出歩いていなかった。一矢から、謹慎も同様に言い渡されていたせいだ。里人も正三には最低限しか近づこうとしない。鬼になりかけた男に怯えているのだと思っていたが……。

ほんの数日前、弓月を抱き上げ歩いた小道を、正三は急ぎ引き返した。


「死んだ? では、先日襲われて殺された里人の一人が、六十近くの年寄りだというのか? なぜそんな年寄りを見張りに立たせたのだ!」


正三はこの里が本当に、かつての高円の里かどうか確かめたくて年寄りを訪ねたが……。


「いやあ、俺らもやめた方がいいって言うたんだが。勇者さまの頼みだって、なぁ」


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