弟矢 ―四神剣伝説―
なんと、連中は、五つかそこらの幼子に、出刃包丁を突きつけている。


(どうしてあの少女が!?)


そう思った直後、正三は胸の痞(つか)えが取れるのを感じた。


――そうだったのだ。何故、これほど単純な手に引っ掛かってしまったのか。 


そうなれば、目標は自分だけにあらず、おきみも危ない。

恐る恐る奥にやってくる里人の視界に入らぬように、暗がりを移動して、祭壇の近づく。連中は六人。外にはまだいるだろうが、本格的に手合わせするつもりはない。

正三は、手近にあった予備の蝋燭を一本取ると、本堂の反対側に向かって放り投げた。

 
カターン、カタカタ、コロコロ……
 

不意に後方から聞こえた音に、全員振り向き、身構えた。

その隙を狙って、正三はひと息で蝋燭を吹き消す。辺りは一瞬で闇に落ち――目を瞑り、三つ数えた。そして、目を開けた瞬間、正三は彼らに向かって走った。
  

慌てふためく里人の懐に飛び込むと、脇差を鞘ごと引き抜き、得物だけを狙って叩き落した。少女だけ奪い走り去っても良かったのだが、闇に対する恐怖から刃物を振り回し、同士討ちで死なれては寝覚めが悪い。

正三はそんな自分を思わず苦笑した。

それほど、甘い人間ではなかったつもりだが、どうやら良くも悪しくも乙矢の影響らしい。


「よいか。このまま抱えて逃げる。決して、暴れるんじゃないぞ」


返事の代わりにおきみは、正三の袖をギュッと握り締めた。


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