弟矢 ―四神剣伝説―

二、逢う魔が時

「おきみ、怪我はないか?」


正三の問いに、おきみはコクンと首を縦に振った。

西日が二人を照らし始める。暮六つにはもう少しといった辺りだろう。二人は今、里を少し離れた森の中にいた。



正三が本堂にいた時、扉を破りドカドカと入り込んで来たのは、血気に逸った里人だった。

それも、比較的若い連中だ。それぞれが手に鉈(なた)や鋤(すき)、担ぎ棒など武器になるものを持っている。


正三には何事が起きたのか見当もつかない。

だが、あの様子からすると、鉈を振り下ろす目標が自分であることは明らかだ。小部屋の引き戸越しに覗き込んでいたが、そのまま静かに屈み込む。右手で懐から手拭いを取り出し左手をきつめに縛った。赤い道標を残しながら、逃げるのは愚かであろう。

引き戸はあえて閉めず、正三はそのまま後退しようとした。――その時だ。


「やっぱり、一矢様の言われる通り、本堂に上がり込みよったぞ! 奴も乙矢の仲間なんだ!」

「一矢様が、蚩尤軍が入らんようにと、張っていかれた結界を破りに行ったんだ!」

「奴は、俺らを皆殺しにする気だ! そうだろ!? ほんとは話せるんだろうが! 答えんか、おきみっ!」


その言葉に、正三の足は止まった。


< 254 / 484 >

この作品をシェア

pagetop