弟矢 ―四神剣伝説―
だが、それに近い話はある。


四神剣のうちで最も扱い辛く、正当な持ち主ですら鬼に変えるという、神剣『朱雀』がそれだ。

別名「裏切りの剣」と呼ばれていた。


『朱雀』は常に血に飢え乱世を好む。

伝説では、初代の持ち主であった勇者も、遂にはその誘惑に負け、『白虎』の勇者に斬られたと言われている。

そのせいだろうか。『朱雀』を守護する皆実家は、この結界を上手く操れる人間が多い。現宗主、皆実宗次朗もその一人であった。

だからこそ、彼は自身の作り上げた結界に身を隠しているのだ、という噂がある。それだけに、見つけるのも至難の技であろう。
 

逆に、乙矢はこの結界を、作るのも見抜くのも苦手だ。

正三も同様で、見抜く目は乙矢以上ではあったが、作ることは苦手というより、できない。弓月も大差なく、やはり適性の問題と思われる。

正三の能力では、おきみを覆った木の枝に、念を籠めて見つかりにくくするのが精一杯であった。
 

< 267 / 484 >

この作品をシェア

pagetop