弟矢 ―四神剣伝説―
弓月の落胆は隠せない。だが、こんな夜更けに何事であろう? そう思うと自然に身体が動いた。

だが、そっと寝間を抜け出してきた手前、脇差すら持ってはいない。弓月は危険を承知で、そのまま一矢の後をつけたのだった。


弓月が対岸に渡った時、すでに一矢の姿は見えなくなっていた。しかし、そのまま川上に向かったはずだ。気配を殺しながら川沿いを歩く。

すぐに、弓月は森の入り口に辿り着いた。見当をつけて静かに木立を分け入り……。



「……うか。遂に……が神剣を抜いたか……」


ふいに聞こえた一矢の声に耳をすまそうとした時、弓月は後ろから羽交い絞めにされた。咄嗟に振り返り、相手の急所を狙おうとしたが、


「しっ! お静かに」

「……長瀬、どうして……」

「無茶が過ぎます。凪先生が知らせて下さった」

「すまぬ。だが……」


風下(かざしも)に身を潜める二人の声は、一矢らには届いていないようだ。だが、一矢の向こうに見えた人影に、二人は息を飲んだ。

それは紛れもなく蚩尤軍兵士の出で立ち。顔はうっすらとしか見えないが、面差しはどことなく一矢に似ている。

やはり敵に通じていた。

確信めいたものを感じつつ、逸る心を抑える。だが、次に聞こえた言葉に二人は凍りついた。



「では、間違いなく――織田正三郎は死んだのだな」


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