ひとまわり、それ以上の恋
「教えてしまったら、魔法は……とけちゃうんですか?」

「君次第だよ、それを分かってほしいんだ。無責任なことはしたくない。欲しいという気持ちを押し通していいなら、本気で君を受けとめたいと思う。それを君は一時の感情じゃないって……言えるのかな」

 ひとまず中に入ろうか、と促されて、市ヶ谷さんの腕が緩む。離された心臓はドキドキしていてすごく苦しい。

 お店の中に入ろうとする市ヶ谷さんの背中を見つめて、彼が言った言葉を反芻していた。

 ――欲しいという気持ちを押しとおしていいなら、本気で君を受けとめたい思う。

 私は咄嗟に市ヶ谷さんの腕を引っ張って自分の顔を近づけた。

 背伸びをすることで近づける距離なら、埋めてしまいたい。
 涙を流すことで綺麗さっぱり忘れられるのなら、そうしてしまいたい。
 相反する感情が私の中で突きあがっていく。

 これは一時的な感情?

 男の人を知らなくて、恋愛初心者の私には、これが正常なことなのかどうなのかなんて分からない。

 だけど……止められないの。

 驚いた顔をした市ヶ谷さんが、私の頬を包んでくれる。
 やわらかい唇が触れて、息が止まるんじゃないかと思った。

 気づいたら、市ヶ谷さんの唇と、私の唇が、やさしく重なり合っていて。
 私はそれから目を閉じて、市ヶ谷さんの背にぎゅっとしがみついた。


 私をすきになってください。
 とけない魔法をかけて。


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