女王様のため息
二次会へと移動するメンバー達と別れる時、部長からは
『二人の都合は後回しで全て決めてしまって申し訳なかったな』
と頭を下げられた。
私の研修部への異動が内示されて以来続いていた慌ただしさや不安は少なくなかったし、時には泣き出したい時もあった。
ただでさえ仕事が変わる事は尋常ではないストレスなのに、生活の拠点までも変えなくてはいけない事に、いつも気持ちは囚われて。
会社が決めた事なら従うしかないと、私も司も受け入れて、それに沿った未来を計画していたけれど。
未来はまたもや、会社の方針で変更せざるを得なくなった。
私の代わりに研修部への配属が決まった女性の事情を聞けば、やむを得ない事だし、それによって幸せな結婚生活を送る事ができる人がいるっていうのは嬉しいけれど、それでも私と司は会社に振り回されっぱなし。
何とも言えない割り切れない気持ちを払拭する事ができない。
部長が頭を下げてくれた時、笑って
『いいですよ、仕方ないですし』
と余裕の言葉を返した私の本音は、もやもやとして釈然としないもの。
部長の言葉を受け入れたのはただ単に、部長にもどうしようもない事だと同じ会社員としてわかっているからだ。
作り笑いを浮かべている私って心が狭いなと、何だか自己嫌悪に陥っている傍らで、司はあっさりと。
『俺たちを右往左往させた部長には、披露宴のご祝儀をはずんでもらいますよ』
そう言って晴れ晴れとした笑い声をあげていた。
自分の直属の上司でもないのに、どうしてこうも朗らかに部長に軽い嫌味を飛ばせるんだろう。
確かに相模さんという会社の顔である、それも今日の総会で専務へと上り詰めた人の秘蔵っ子だとはいえ、司自身はまだまだ若造。
『なんなら一曲歌ってもらってもいいですよ』
なのに、くすくすと笑ってそんな事まで言っていた。
私の立場も考えて欲しいよ……。
肩を落として小さくため息を落とすしかなかった。