女王様のため息
* * *
「で、昨日は気に入った女の子はいた?」
「んー、いたようないないような」
曖昧な笑いを浮かべる海からは真意は読み取れない。
まあ、いつもの事だけど。
「俺の事を気に入ってる女の子もいなかったような気がするな」
淹れたてのコーヒーの香りが漂うキッチンで遅いランチを食べながら、海と二人で特に意味もない会話を繰り返している。
冷蔵庫にある野菜と卵で手早く作ったサンドイッチを頬張りながら、流れるテレビを見ていると、まるでずっと一緒に住んでいる家族のような錯覚。
「天気いいから、布団、干してやろうか?」
「あ、頼んでいい?」
「ああ、いくら寝相が悪いからってクイーンサイズのベッドにするから困るんだよ。布団一人で干せないなんて、笑える」
くすくすと笑って肩をすくめる海に、へへっと小さく笑ってみせた。
憧れだった大きなベッドで寝るようになったのはいいけれど、いざお布団をベランダに干そうとして、その大変さに気づいた。
本当、大変なんだ。
海がこの部屋に遊びに来た時に、天気が良ければ干してくれるけれど、それ以外は、時々布団乾燥機のお世話になっている。
お日様に当たってほかほかになったお布団での眠りほど幸せな事はないのに、それがなかなかできない現実。
ベッドを買う前に誰かが教えてくれればいいのに。
何度か買い換えようかとも思ったけれど、もったいない気持ちが先に立ってそれはできなかった。
「……早く恋人作って……というより、いっそ早く結婚して週末ごとにお布団干してもらえるといいな」
寝室に向かう海のその言葉、何度も聞かされて、何度も苦笑いでごまかしてる。
結婚なんて、現実感ないけれど、やっぱりお布団干してくれる人、欲しい。
……本当、これであだ名は女王様だもん、名前負けだな。