キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「そうか、王家の宝剣にそんな力がな」
話を聞き終えたイルムガンドルはうなずいた。
「異変を仕組んだのが渡鴉ではないかとの先ほどの言の意味もわかった。
天の人をパイロープで打ち落とした黒幕がいるか……」
目つきを鋭くする王様の前で、
ごほうび、ごほうび、とキリがラグナードの服の袖を引っぱって、杖の話を切り出すようにかわいい声でおねだりした。
ラグナードは手にした黒い手紙をちらと一瞥(いちべつ)して、
キリの訴えを無視することに決める。
黙ったままのラグナードを見て、キリが「ぶー」とうなってふくれた。
「ふむ、ちょうど渡鴉に助力を頼んだ直後で驚いたが──入れ違いになったということだな」
イルムガンドルの言葉を聞いて、ラグナードは少し首をひねった。
「そんな居場所も知れぬ者に対して、どうやって助力の返事を……?」
黒い手紙には、返事の送り先など本人のいる場所の情報はまったく記されていない。
ただ、手紙の最後に『この条件で力を貸してほしければ、ここに国王直筆の署名を』とだけ書いてあった。
「この黒い手紙は、届いたときには同じものが二通あったのだが──私が署名をすると、一通はその場で消えた」
「まさか……手紙自体が魔法使いの契約書!?」
同様にラグナードと契約を交わしているキリが声を上げて、
「宮廷魔術師によるとそういうものらしいな」
と、イルムガンドルが首肯した。
「契約が成立すると、一通が差出人のもとにもどり、もう一通がこちらに残る魔法がかけてあったらしい」
「つまり、署名が返事の代わりということですか」
キリの契約書に血判を押したことを思い出して、ラグナードはなるほどと納得して、
「渡鴉が所望してきたヴェズルングの杖については、少し問題があったしな。奴の手を借りることなくおまえたちがパイロープを奪還したのならば、何よりだ」
イルムガンドルの言葉に、思わず眉を寄せた。
あやうくこの場で、どういうことかと問い返しそうになるのをかろうじてこらえると、
「え!? ヴェズルングの杖についての問題って何が……」
キリが直接、イルムガンドルにたずねようとした。
「無礼だぞ! つつしめ!」
ラグナードは急いでキリの口をふさいで止めた。
「むぐーむがー」と、口を押さえつけられたキリがもがいた。
「申し訳ありません、陛下。この者の言葉などお気にされませんよう。
説明したようにこの娘はただの庶民の魔法使い。陛下と直接口をきける身分ではございませんので」