キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
もしも、

姉の印は赤く、ラグナードの印だけが黒く見えるのだとしたら──


そんなことを確かめて、自分はどうする気なのだろうか。

そんなことは聞かないほうがいいのではないか。


そう思っても、どうしようもなく気になった。



かたずをのんで返答を待つ彼に、


キリは、



「ごめん、気がつかなかった」



あはは、と笑いながらそう言った。

「ラグナードみたいに顔に印があるならすぐ気づくけど、
瞳の中なんて、注意して見ないとわかんないよー」

ラグナードの肩から一気に力がぬける。

「そうか。そうだな……」

「それに瞳の模様ならこのくらい近づかないと、あんな離れた場所からじゃ見えない」

キリは間近にあるラグナードの薄いすみれ色の瞳をのぞきこんだ。

「でも、どうしてそんなこときくの?
ほかの家族の印もラグナードのとおんなじなんでしょ。
みんな私の目には黒く見えるんだって、ラグナードも言ってたじゃない。
だったら、王様の目の中の印も同じ黒色だと思うけど」

キリが首をかしげて、

「いや──」

ラグナードは、エメラルドグリーンの目から視線をそらした。


「きっと、ほかの家族の印は赤く見えるはずだ」


「ええ?」

ラグナードが断言して、キリは目をしばたたいた。

「俺の印だけがきっと黒い」

「そうなの? どうして?」

ラグナードの顔に、王の執務室で姉にしかられた時と同じ、自虐的な冷笑がうかんだ。


「……俺はできそこないだから」


と、ブロンドの美青年は皮肉げな口調で言った。


「おまえの目に見える色が違うわけじゃない。
きっと誰も面と向かって言わないだけだ」


城に帰還してから、ラグナードの中で疑惑は確信に変わっていた。


「王家を継ぐのにふさわしくない人間の刻印は、黒くなるんだろう。
赤い炎の色ではなく、燃えかすの炭のような黒い色にな」


氷雨のような冷たい笑いで卑屈な言葉を口にする若者を、キリはしげしげと見つめた。

自信に満ちあふれて他人を見下していた王子様とは、まるで別人だった。




ラグナードはまっすぐに自室にもどろうとはせず、
ケメナーテから渡り廊下を通って、北翼の塔との間にある離れの建物へと向かった。


「おまえたちに、見てもらいたい人間がいる」

と、魔法使いの味方を城に連れ帰った本来の目的を思い起こしながら、ラグナードは表情を険しくする。

「見たもらいたい人間……?」

あちこちで城の内装に興味を示しながら遅れて歩いていたジークフリートが、ラグナードとキリに追いついてきてたずねた。

「おまえたちにきくが……」

ラグナードは、いまいましいあざやかな黄緑色のブロンドを脳裏に描いた。

「魔法使いというのは──魔法で他人に取り入り、とりこにすることも可能か?」
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