キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「黙れ! この俺が母上にあいさつするのに、何の約束が要る!?」
お母さん?
ラグナードの口から紡がれた単語を聞いて、キリは目を丸くした。
この部屋にいる女性というのは、ラグナードの母親だったのかと思いながら、ラグナードとにらみ合っている女官を見つめた。
「さっさと取り次げ!
貴様を牢屋送りにして、扉をぶちこわして入ってもいいんだぞ!!」
ラグナードの剣幕に、女官は一瞬あっけにとられた顔をした。
それから彼女は嫌悪をこめた目で王子様を一にらみして、ようやく部屋の主に取り次ぐ気になったのか中へと引っこんだ。
ふたたび閉じられた扉に向かって、ラグナードがちっと小さく舌打ちする。
王族というのは母親にも普通に会えないのだろうかとキリは衝撃を受けて、
それにしても女官の態度は、王子様に対してあまりに邪険で失礼だったのじゃないかなと思った。
すぐにまた扉が開いて同じ女官が顔を出した。
今度は女官は「どうぞ」と無愛想に言って、三人を中へと入れた。
ラグナードの背中にくっついて部屋の中へと入り、
キリはため息をはいた。
女性の部屋らしく花や植物の模様をあしらった調度や家具がそろった、見たこともない豪華な部屋だ。
「ただ今もどりました、母上」
と、ラグナードが部屋の奥のソファに座った女性に会釈をする。
そちらを見たキリは思わずぽかんと立ちつくした。
豪奢なドレスに身を包んで物憂げなヘーゼルの瞳をラグナードに向けるその女は、どう見ても彼と同じくらいの年齢だ。
十代後半か、二十歳そこそこの若い女性だった。
「ラグナードのお母さん?」
思わず、キリはラグナードに小声できいた。
「お姉さんじゃなくて?」
女性は、さきほど謁見した国王よりもずっと若く見える。
部屋の中にはキリたちを追い返そうとした女官の他にも数人の女官がいたが、女官たちもみな若かった。
キリの質問には何も答えず、
ラグナードはただ苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「王家の恥さらしが。よくもわらわの前に顔を出せたな」
と、ソファから立ち上がりもせずに女は言った。
開口一番彼女の口から飛び出したセリフに、キリは耳を疑った。
天の人が吐く液体窒素の魔法のような冷たい言葉だった。
「留学先から行方をくらませるなど、王家の名に泥を塗るマネもはなはだしい。
いっそ、そのままどこにでも消えてくれてかまわなかったのに」
女はラグナードに向かってさらにそう続けた。
確かにラグナードの行動は常軌を逸していたが、
それでも行方知れずになっていた息子と半年ぶりに再会した母親の言葉とはとても思えない。
「おまえのような迷惑者は、帰ってこないほうがどれほど王家のためになるか」
氷のような口調ではきすてる女性の濃いブラウンの髪と、ラグナードの薄いブロンドとを、キリは見くらべて、
あることを思いついた。
「義理のお母さん?」
物語に登場する冷たいお后様を脳裏に描きながら、キリはラグナードにささやいた。
「継母(ままはは)ってやつ?」
その言葉に対しては、
「俺の実の母上だ!」
即座に、
ラグナードは不愉快さに顔をゆがめてそうどなった。
抑えてはいても、明らかに周囲の女官やソファの女性にも聞こえたに違いない声だった。
「ええ?」とびっくり仰天して、どう見てもラグナードを産んだとは思えない若い女性に無遠慮な視線を送るキリを、
女性のヘーゼルの瞳が映した。
お母さん?
ラグナードの口から紡がれた単語を聞いて、キリは目を丸くした。
この部屋にいる女性というのは、ラグナードの母親だったのかと思いながら、ラグナードとにらみ合っている女官を見つめた。
「さっさと取り次げ!
貴様を牢屋送りにして、扉をぶちこわして入ってもいいんだぞ!!」
ラグナードの剣幕に、女官は一瞬あっけにとられた顔をした。
それから彼女は嫌悪をこめた目で王子様を一にらみして、ようやく部屋の主に取り次ぐ気になったのか中へと引っこんだ。
ふたたび閉じられた扉に向かって、ラグナードがちっと小さく舌打ちする。
王族というのは母親にも普通に会えないのだろうかとキリは衝撃を受けて、
それにしても女官の態度は、王子様に対してあまりに邪険で失礼だったのじゃないかなと思った。
すぐにまた扉が開いて同じ女官が顔を出した。
今度は女官は「どうぞ」と無愛想に言って、三人を中へと入れた。
ラグナードの背中にくっついて部屋の中へと入り、
キリはため息をはいた。
女性の部屋らしく花や植物の模様をあしらった調度や家具がそろった、見たこともない豪華な部屋だ。
「ただ今もどりました、母上」
と、ラグナードが部屋の奥のソファに座った女性に会釈をする。
そちらを見たキリは思わずぽかんと立ちつくした。
豪奢なドレスに身を包んで物憂げなヘーゼルの瞳をラグナードに向けるその女は、どう見ても彼と同じくらいの年齢だ。
十代後半か、二十歳そこそこの若い女性だった。
「ラグナードのお母さん?」
思わず、キリはラグナードに小声できいた。
「お姉さんじゃなくて?」
女性は、さきほど謁見した国王よりもずっと若く見える。
部屋の中にはキリたちを追い返そうとした女官の他にも数人の女官がいたが、女官たちもみな若かった。
キリの質問には何も答えず、
ラグナードはただ苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「王家の恥さらしが。よくもわらわの前に顔を出せたな」
と、ソファから立ち上がりもせずに女は言った。
開口一番彼女の口から飛び出したセリフに、キリは耳を疑った。
天の人が吐く液体窒素の魔法のような冷たい言葉だった。
「留学先から行方をくらませるなど、王家の名に泥を塗るマネもはなはだしい。
いっそ、そのままどこにでも消えてくれてかまわなかったのに」
女はラグナードに向かってさらにそう続けた。
確かにラグナードの行動は常軌を逸していたが、
それでも行方知れずになっていた息子と半年ぶりに再会した母親の言葉とはとても思えない。
「おまえのような迷惑者は、帰ってこないほうがどれほど王家のためになるか」
氷のような口調ではきすてる女性の濃いブラウンの髪と、ラグナードの薄いブロンドとを、キリは見くらべて、
あることを思いついた。
「義理のお母さん?」
物語に登場する冷たいお后様を脳裏に描きながら、キリはラグナードにささやいた。
「継母(ままはは)ってやつ?」
その言葉に対しては、
「俺の実の母上だ!」
即座に、
ラグナードは不愉快さに顔をゆがめてそうどなった。
抑えてはいても、明らかに周囲の女官やソファの女性にも聞こえたに違いない声だった。
「ええ?」とびっくり仰天して、どう見てもラグナードを産んだとは思えない若い女性に無遠慮な視線を送るキリを、
女性のヘーゼルの瞳が映した。