キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
その瞳と、
女の態度と、
美しい唇からつむがれた言葉にひそむものに、キリはようやく気づく。
「そっか……」
青年期の若々しい見た目と一致しない大人びた言動、
しかし決して老人のものでもない、暗い何かをふつふつとくすぶらせた表情。
若者の瞳にはたいそう似つかわしくない、年月を重ねた陰鬱な影にしずんだ榛色(はしばみいろ)の双眸。
「なあんだ、びっくりした」
キリにとっては、とてもなじみのある違和感だった。
「魔法で若さを保ってるだけかぁ」
ぽけっと女を見つめたままキリが言って、
女官たちがぎょっとした様子で肩をふるわせた。
何のことはない。
年経た魔法使いたちがよくやるように、目の前の女性は魔法を使って実年齢よりも若い肉体を維持しているのだ。
「母上」という響きから想像していたよりはるかに若い──ともすれば少女とも見まごう体の中からにじみ出ているのは、
十九歳の王子様を産んでいてもおかしくはない、中年の域に達しようとしている女性の仕草や目つきであった。
キリはこの人も魔法使いなのだろうかと、女官からアンネモーナと呼ばれていた目の前の女性を見つめた。
「もっとも、魔法をかけてるのは他の人間だろうけどな」
と、キリの横でジークフリートがその考えを否定するように言った。
天の人であるジークフリートには、目の前の人間が魔法使いかどうかを見極められるということだろうか。
女官たちが不安そうに顔を見合わせて、アンネモーナに視線を送った。
「その者らは何じゃ?」
アンネモーナがラグナードにたずねて、
「魔法使いです」
ラグナードはその事実をことさらに強調するかのような言い方でそう答えた。
「魔法使い……」
アンネモーナは小さくつぶやき、背に白い翼を生やしたジークフリートをちらりとながめて──
──すぐに興味を失った様子で、キリに視線をもどした。
この天の人を前にした人間の中では、驚くべき反応だった。
衛兵たちも、
妖艶な宰相も、
国王も、
そしてこの部屋にいる女官たちも、
誰もが、背中に羽があるジークフリートの姿にくぎづけになる中、
彼女だけは、まるでジークフリートが普通の人であるかのように──
いや、
むしろ、ジークフリートよりもキリのほうにくぎづけになったように、
なぜなのか、じろじろとキリに視線を注いだ。
「この者らの助力を得て、怪物を退治してパイロープを奪還して参りました」
ラグナードはそんな母親に向かって深々と頭を垂れて、そう報告した。
「そうか……」
とキリを見つめたまま、アンネモーナの口が動いた。
周囲の女官たちが驚く気配が伝わってくる。
それを感じながら、
ラグナードは頭を下げて足もとのじゅうたんの花模様を見つめたまま、じっと、次の言葉を待った。
国のために危険を冒してきた息子に対して、母親がかけてくれるであろう言葉を。
だが、
次の瞬間、母親の口から放たれた言葉は──
「死ねばよかったのに」
というものだった。
「ドラゴンを殺してもどってきたというのか、いまいましいこと。
おまえなど、ドラゴンに殺されてしまえばよかった」
キリが目を丸くし、
ジークフリートは無反応で、
ラグナードは凍りついた。
「話はそれだけかえ?
それならとっとと出ておいき。
わらわは、おまえの顔を見ているだけで気分が悪くなる」
女の態度と、
美しい唇からつむがれた言葉にひそむものに、キリはようやく気づく。
「そっか……」
青年期の若々しい見た目と一致しない大人びた言動、
しかし決して老人のものでもない、暗い何かをふつふつとくすぶらせた表情。
若者の瞳にはたいそう似つかわしくない、年月を重ねた陰鬱な影にしずんだ榛色(はしばみいろ)の双眸。
「なあんだ、びっくりした」
キリにとっては、とてもなじみのある違和感だった。
「魔法で若さを保ってるだけかぁ」
ぽけっと女を見つめたままキリが言って、
女官たちがぎょっとした様子で肩をふるわせた。
何のことはない。
年経た魔法使いたちがよくやるように、目の前の女性は魔法を使って実年齢よりも若い肉体を維持しているのだ。
「母上」という響きから想像していたよりはるかに若い──ともすれば少女とも見まごう体の中からにじみ出ているのは、
十九歳の王子様を産んでいてもおかしくはない、中年の域に達しようとしている女性の仕草や目つきであった。
キリはこの人も魔法使いなのだろうかと、女官からアンネモーナと呼ばれていた目の前の女性を見つめた。
「もっとも、魔法をかけてるのは他の人間だろうけどな」
と、キリの横でジークフリートがその考えを否定するように言った。
天の人であるジークフリートには、目の前の人間が魔法使いかどうかを見極められるということだろうか。
女官たちが不安そうに顔を見合わせて、アンネモーナに視線を送った。
「その者らは何じゃ?」
アンネモーナがラグナードにたずねて、
「魔法使いです」
ラグナードはその事実をことさらに強調するかのような言い方でそう答えた。
「魔法使い……」
アンネモーナは小さくつぶやき、背に白い翼を生やしたジークフリートをちらりとながめて──
──すぐに興味を失った様子で、キリに視線をもどした。
この天の人を前にした人間の中では、驚くべき反応だった。
衛兵たちも、
妖艶な宰相も、
国王も、
そしてこの部屋にいる女官たちも、
誰もが、背中に羽があるジークフリートの姿にくぎづけになる中、
彼女だけは、まるでジークフリートが普通の人であるかのように──
いや、
むしろ、ジークフリートよりもキリのほうにくぎづけになったように、
なぜなのか、じろじろとキリに視線を注いだ。
「この者らの助力を得て、怪物を退治してパイロープを奪還して参りました」
ラグナードはそんな母親に向かって深々と頭を垂れて、そう報告した。
「そうか……」
とキリを見つめたまま、アンネモーナの口が動いた。
周囲の女官たちが驚く気配が伝わってくる。
それを感じながら、
ラグナードは頭を下げて足もとのじゅうたんの花模様を見つめたまま、じっと、次の言葉を待った。
国のために危険を冒してきた息子に対して、母親がかけてくれるであろう言葉を。
だが、
次の瞬間、母親の口から放たれた言葉は──
「死ねばよかったのに」
というものだった。
「ドラゴンを殺してもどってきたというのか、いまいましいこと。
おまえなど、ドラゴンに殺されてしまえばよかった」
キリが目を丸くし、
ジークフリートは無反応で、
ラグナードは凍りついた。
「話はそれだけかえ?
それならとっとと出ておいき。
わらわは、おまえの顔を見ているだけで気分が悪くなる」