キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
あたたかなねぎらいも、
息子を心配する母の愛も、
まるで感じられない氷のような言葉のられつだった。
死ぬ思いをしてきた者に家族がかけるセリフとも思えず、キリはがく然とした。
「そんな言い方は、あんまりなんじゃないですか……!?」
静まりかえった部屋の中で、思わずキリは声を上げた。
その場にいる者の視線がいっせいに彼女につきささる。
「ラグナードは、この国のために──」
どう言えばラグナードががんばってきたことが伝わるだろうかと思いながら、キリは必死で説明しようとして、
「この無礼者がッ!!」
とつぜん、
ほっぺたをひっぱたかれた。
「平民の分際で、母上に対して無礼な口をきくなッ」
キリの頬を平手でなぐりつけ、
そうどなりつけたのは、ラグナードだった。
なにが起きたのか理解できず、キリはひりひりするほっぺたを押さえた。
顔を赤く染めて怒りの炎が燃える瞳でキリをにらみつけるラグナードを、ぽかんと見上げる。
地上の人間たちの行動を見て、ジークフリートもゆっくりと首をかしげた。
ラグナードが色の薄い紫色の瞳を、
キリのまのぬけた顔から、母親のほうへと動かした。
「……それだけですか?」
ラグナードは押し殺した声で母にそうたずねた。
「息子に対して、母上はほかに何もかける言葉はないのですか?」
「息子だと?」
表情一つ変えずに目の前の光景を見つめていたアンネモーナが、整ったブラウンの眉をよせて、さっと険しい顔になる。
「おお、嫌だ嫌だ。
おまえのような殺しが大好きな人間を息子だと考えるだけでぞっとする」
と、血を分けた我が子に蛇蝎を見るかのごとき目を向けて、母親は言った。
「戦争だけではあきたらず、パイロープにまでドラゴンを殺しに行ったか。
それで、わらわによくやったとほめてほしいとでも?
本当に野蛮な子だこと」
アンネモーナがはきすてて、
周囲の女官たちから失笑がもれた。
今度はジークフリートが何事か言いかけて口を開き──
赤くはれたほっぺたを押さえているキリとラグナードとを見くらべて、何も言わずにそのまま口を閉じた。
ラグナードは爪を肉に深く食いこませて両手を握りしめていたが、
「そうですか」
と、ぞっとするほど冷ややかな声を出して、母親に背を向けた。
「ではこれで失礼します、『アンネモーナ様』」
「母上」とは呼ばずにそう言って、ラグナードは足早に部屋の扉へと歩みよった。
ジークフリートが黙ったままその孤独な背中を追いかけて、
「そなた、名は何という?」
アンネモーナが、なぐられたほっぺを押さえてぽけっと立ちつくしていたキリに声をかけた。
ラグナードに対する言葉の数々とは違い、おどろくほど優しい響きだった。
息子を心配する母の愛も、
まるで感じられない氷のような言葉のられつだった。
死ぬ思いをしてきた者に家族がかけるセリフとも思えず、キリはがく然とした。
「そんな言い方は、あんまりなんじゃないですか……!?」
静まりかえった部屋の中で、思わずキリは声を上げた。
その場にいる者の視線がいっせいに彼女につきささる。
「ラグナードは、この国のために──」
どう言えばラグナードががんばってきたことが伝わるだろうかと思いながら、キリは必死で説明しようとして、
「この無礼者がッ!!」
とつぜん、
ほっぺたをひっぱたかれた。
「平民の分際で、母上に対して無礼な口をきくなッ」
キリの頬を平手でなぐりつけ、
そうどなりつけたのは、ラグナードだった。
なにが起きたのか理解できず、キリはひりひりするほっぺたを押さえた。
顔を赤く染めて怒りの炎が燃える瞳でキリをにらみつけるラグナードを、ぽかんと見上げる。
地上の人間たちの行動を見て、ジークフリートもゆっくりと首をかしげた。
ラグナードが色の薄い紫色の瞳を、
キリのまのぬけた顔から、母親のほうへと動かした。
「……それだけですか?」
ラグナードは押し殺した声で母にそうたずねた。
「息子に対して、母上はほかに何もかける言葉はないのですか?」
「息子だと?」
表情一つ変えずに目の前の光景を見つめていたアンネモーナが、整ったブラウンの眉をよせて、さっと険しい顔になる。
「おお、嫌だ嫌だ。
おまえのような殺しが大好きな人間を息子だと考えるだけでぞっとする」
と、血を分けた我が子に蛇蝎を見るかのごとき目を向けて、母親は言った。
「戦争だけではあきたらず、パイロープにまでドラゴンを殺しに行ったか。
それで、わらわによくやったとほめてほしいとでも?
本当に野蛮な子だこと」
アンネモーナがはきすてて、
周囲の女官たちから失笑がもれた。
今度はジークフリートが何事か言いかけて口を開き──
赤くはれたほっぺたを押さえているキリとラグナードとを見くらべて、何も言わずにそのまま口を閉じた。
ラグナードは爪を肉に深く食いこませて両手を握りしめていたが、
「そうですか」
と、ぞっとするほど冷ややかな声を出して、母親に背を向けた。
「ではこれで失礼します、『アンネモーナ様』」
「母上」とは呼ばずにそう言って、ラグナードは足早に部屋の扉へと歩みよった。
ジークフリートが黙ったままその孤独な背中を追いかけて、
「そなた、名は何という?」
アンネモーナが、なぐられたほっぺを押さえてぽけっと立ちつくしていたキリに声をかけた。
ラグナードに対する言葉の数々とは違い、おどろくほど優しい響きだった。