キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「女の子をたたくなんて、最低ー、おにー、あくまー」
キリがラグナードをうらめしそうににらんで、
「貴様が無礼な口をきくからだ」
ラグナードが不機嫌に言った。
「俺にはおまえらがさっぱり理解できん」
と、キリから解放されたジークフリートが首をひねった。
「とても同じ人の行動とは思えん……!」
キリは、ジークフリートにそう言われたらおしまいだと思ったが、
「あの女がラグナードに対して口にしたのは、不当な評価だった。
キリは訂正しておまえをかばおうとしたんじゃねーか。
そこでキリがなぐられる意味がわからん」
その言葉には同感だった。
どうして自分がひっぱたかれたのか……キリとってはあまりに理不尽だった。
ジークフリートは無表情なまま、目つきだけするどくして嫌悪をあらわにした。
「あの女は、明らかにラグナードの誇りをおとしめた。
なぐられるべきは、あの女のほうだろう。それを……」
「黙れ! 貴様もなぐられたいかッ」
ラグナードが今度は平手ではなくこぶしをにぎってジークフリートをねめつけた。
「それはやめろ。ケガをする」
ジークフリートがしれっと言って、
「俺の母上だ……!」
と、ラグナードはしぼり出すように言った。
「覚えておけ。俺の家族に二度と無礼は許さん──」
それだけ言ってふたたび歩き出すラグナードの背中を、キリは目を見開いてしげしげとながめて、
それからうれしそうな顔になって、「そっか、わかった」と言ってラグナードを追いかけた。
「なにがわかったんだ……?」
一人その場に取り残されたジークフリートがもう一度首をひねってぼやいた。
ラグナードの顔を横からのぞきこんで、うふふ、と笑うキリを、ラグナードが怪訝そうに見下ろした。
「うれしそうだな」
「うん。まあね」
先刻までベソをかいていたのが嘘のようにキリはほほえんで、
「でも……」と、ラグナードを少し気づかうようにしながら口を開いた。
「ラグナードのお母さんって、ちょっと機嫌が悪かったのかな」
「母上はいつもああだ」
そう言うラグナードの顔を見上げて、キリは眉をよせた。
ラグナードの顔には、王の執務室で見たのと同じ冷たい笑いがはりついていた。
とても自虐的な。
とてもつらそうな……。
「あいつが──母上に取り入っておかしくしたんだ」
ラグナードはいまいましげに毒づいて、歩調を早めた。
「あいつ?」
キリは一生懸命にラグナードを追いかけながらきいた。
「部屋に入る前にもそんなことを言ってたな」
二人に追いついたジークフリートが後ろから言った。
「ラグナードが言う『あいつ』とは、今の女に若さを保つ魔法をかけた者のことか?」
足を止めて、ぎりっとラグナードが奥歯を鳴らした。
「そうだ」
と、ラグナードは憎しみのこもった目で廊下にわだかまる闇をにらんだ。
「あの男が母上をたぶらかしたせいで──」
「男……」
キリはラグナードの言葉をくり返した。
「母上にはおかしなところがあっただろう?
取り入られる魔法がかけられていなかったか?」
どこか必死な様子で、
ラグナードは二人の魔法使いにたずねた。
「おかしなところって……」
キリはジークフリートと顔を見合わせた。
おかしなところも何も、息子であるラグナードをああまで邪険にするというのは十分におかしすぎると思うのだが──
「さあな。若さを保つ魔法以外には、特に何か魔法をかけられている様子はなかったな」
魔法に通じた天の人はそう断言した。
ラグナードが無言でジークフリートを見つめた。
「だが、さっきも言ったが、人に取り入る魔法には色々ある」
そうか、とうなるように言ってラグナードがうつむいた。
キリは苦しそうなその横顔を見つめる。
あの女性には、明確な意志があった。
かつてのキリのように、誰かに操られているようには決して見えなかったが、
つまり、
彼女は、何者かに「たぶらかされて」彼に冷たくあたるようになったということだろうか。
それにしても、血の繋がった息子にかけた言葉が「死ねばよかったのに」とは、尋常ではない。
それに──
キリはもう一つ気になったことを思いうかべた。
「おかしなところって言えばさ」
言おうかどうしようか少し迷って、
「あの女官たちって、なに?」
こわごわ、キリはたずねた。
「どうして女の子ばかり何人も……」
なぜだかわからないが、
少女たちに囲まれたアンネモーナには、言いしれぬ異様なものを感じた。
「あれは──」
ラグナードはやや言いよどんで、
「母上が国内から集めた名家の令嬢だ」
と、答えた。
キリがラグナードをうらめしそうににらんで、
「貴様が無礼な口をきくからだ」
ラグナードが不機嫌に言った。
「俺にはおまえらがさっぱり理解できん」
と、キリから解放されたジークフリートが首をひねった。
「とても同じ人の行動とは思えん……!」
キリは、ジークフリートにそう言われたらおしまいだと思ったが、
「あの女がラグナードに対して口にしたのは、不当な評価だった。
キリは訂正しておまえをかばおうとしたんじゃねーか。
そこでキリがなぐられる意味がわからん」
その言葉には同感だった。
どうして自分がひっぱたかれたのか……キリとってはあまりに理不尽だった。
ジークフリートは無表情なまま、目つきだけするどくして嫌悪をあらわにした。
「あの女は、明らかにラグナードの誇りをおとしめた。
なぐられるべきは、あの女のほうだろう。それを……」
「黙れ! 貴様もなぐられたいかッ」
ラグナードが今度は平手ではなくこぶしをにぎってジークフリートをねめつけた。
「それはやめろ。ケガをする」
ジークフリートがしれっと言って、
「俺の母上だ……!」
と、ラグナードはしぼり出すように言った。
「覚えておけ。俺の家族に二度と無礼は許さん──」
それだけ言ってふたたび歩き出すラグナードの背中を、キリは目を見開いてしげしげとながめて、
それからうれしそうな顔になって、「そっか、わかった」と言ってラグナードを追いかけた。
「なにがわかったんだ……?」
一人その場に取り残されたジークフリートがもう一度首をひねってぼやいた。
ラグナードの顔を横からのぞきこんで、うふふ、と笑うキリを、ラグナードが怪訝そうに見下ろした。
「うれしそうだな」
「うん。まあね」
先刻までベソをかいていたのが嘘のようにキリはほほえんで、
「でも……」と、ラグナードを少し気づかうようにしながら口を開いた。
「ラグナードのお母さんって、ちょっと機嫌が悪かったのかな」
「母上はいつもああだ」
そう言うラグナードの顔を見上げて、キリは眉をよせた。
ラグナードの顔には、王の執務室で見たのと同じ冷たい笑いがはりついていた。
とても自虐的な。
とてもつらそうな……。
「あいつが──母上に取り入っておかしくしたんだ」
ラグナードはいまいましげに毒づいて、歩調を早めた。
「あいつ?」
キリは一生懸命にラグナードを追いかけながらきいた。
「部屋に入る前にもそんなことを言ってたな」
二人に追いついたジークフリートが後ろから言った。
「ラグナードが言う『あいつ』とは、今の女に若さを保つ魔法をかけた者のことか?」
足を止めて、ぎりっとラグナードが奥歯を鳴らした。
「そうだ」
と、ラグナードは憎しみのこもった目で廊下にわだかまる闇をにらんだ。
「あの男が母上をたぶらかしたせいで──」
「男……」
キリはラグナードの言葉をくり返した。
「母上にはおかしなところがあっただろう?
取り入られる魔法がかけられていなかったか?」
どこか必死な様子で、
ラグナードは二人の魔法使いにたずねた。
「おかしなところって……」
キリはジークフリートと顔を見合わせた。
おかしなところも何も、息子であるラグナードをああまで邪険にするというのは十分におかしすぎると思うのだが──
「さあな。若さを保つ魔法以外には、特に何か魔法をかけられている様子はなかったな」
魔法に通じた天の人はそう断言した。
ラグナードが無言でジークフリートを見つめた。
「だが、さっきも言ったが、人に取り入る魔法には色々ある」
そうか、とうなるように言ってラグナードがうつむいた。
キリは苦しそうなその横顔を見つめる。
あの女性には、明確な意志があった。
かつてのキリのように、誰かに操られているようには決して見えなかったが、
つまり、
彼女は、何者かに「たぶらかされて」彼に冷たくあたるようになったということだろうか。
それにしても、血の繋がった息子にかけた言葉が「死ねばよかったのに」とは、尋常ではない。
それに──
キリはもう一つ気になったことを思いうかべた。
「おかしなところって言えばさ」
言おうかどうしようか少し迷って、
「あの女官たちって、なに?」
こわごわ、キリはたずねた。
「どうして女の子ばかり何人も……」
なぜだかわからないが、
少女たちに囲まれたアンネモーナには、言いしれぬ異様なものを感じた。
「あれは──」
ラグナードはやや言いよどんで、
「母上が国内から集めた名家の令嬢だ」
と、答えた。