キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
キリはじょうだんかと思ったが、


「あんなランキングを開催しやがった首謀者を見つけたら、王族不敬罪で牢屋送りにしてやる……!」


と、ユスターシュ本人が歯がみしながら言った。


家臣の信頼が得られなかったという話は、こういうことだったらしい。



「行くぞ、キリ。こんなやつに用はない」

兄上に対する敬意も皆無に宣って、王子様はさっさと通り過ぎようとして、


「あらあ。アタシはまだ用があるわよ」

そんなラグナードとキリの間に、長い髪をゆらしてさっと宰相が割りこんで立ちふさがった。


「まだこの二人のことを紹介してもらってないもの」

ユスターシュはキリと、その後ろにいるジークフリートを赤茶の瞳に映した。


「ラグってば、半年も行方不明になってたと思ったら……羽が生えたお友達なんてどこで見つけてきたのよ?」

と、ユスターシュは天の人の白い翼に好奇の視線を注いで、「それに」とキリを見下ろして顔をのぞきこんだ。

「キリちゃんだったわよね。
どこの家のお嬢さんかしら?」


またしても、キリを貴族のお姫様とかんちがいしたセリフである。

この城の人間たちは、王子様が連れているというだけで、キリのことを貴族の娘に違いないと思いこむようだ。


「かわいいわぁ。アタシの好み」

と言って、ユスターシュはキリの肩に手を置いた。

それを見たラグナードがあわてて引き返してきた。

「キリから離れろ! この変態!」

「やあよ」

ユスターシュはすばやくキリを盾にするように背後に回りこんで、


ぎゅうっとキリを後ろから抱きしめた。


「みゃっ?」

キリがびっくりして、

ラグナードが青くなった。


「うふふ、かわいい。食べちゃいたいわあ」

ユスターシュがふわふわしたピンクの髪の毛にほおずりしながら言って、いたずらっぽい瞳でラグナードを見た。

どうやらラグナードの反応を見て楽しんでいるようだ。


キリは猫のようにユスターシュの腕の中でもがいて、女の人にしか見えないきれいな顔を見上げた。


「ええと、つまり……オカマの人?」

世の中にはそう呼ばれる人がいることを、キリも知っている。


神様の手違いで男に生まれたけれど、心は女の人で、男を好きになるというものだ。


するとケラケラと、キリを抱きしめたままユスターシュが笑った。


「やあねェ。アタシはオカマじゃないわよ」


と、彼は言った。


「はにゃ?」

ぽかんとしたキリのほっぺたを、しなやかな白い指がふに、とつついた。



「アタシは体も心もオ・ト・コ」



「だから変態なんだろうが! 離れろッ」

意味がわからずに首をひねるキリから、ラグナードが力ずくでユスターシュを引きはがした。

「乱暴な子ねェ」と、つやつやしたルージュの唇がくすくす笑いをもらした。


ラグナードと並ぶと、ユスターシュは彼と同じくらいの背の高さがあることがわかる。

明らかに男の身長だ。

ヒールをはいている分、ユスターシュのほうがラグナードよりもやや高い。


「こいつらは貴族じゃない。別の大陸の魔法使いだ」

と、ラグナードがキリとジークフリートの身分を明かした。


「あら。平民なの」

少し目を見開いてそう言ったユスターシュの瞳が一瞬冷たい色に輝いて、キリはおやっと思った。

キリのことをかわいいと言ってくれた先ほどまでとは打って変わって、道ばたの虫けらでも見るかのような軽蔑しきった視線がキリとジークフリートを往復して、


すぐに、もとのいたずらっぽい輝きにもどった。


「異大陸の魔法使いって背中に羽があるものなの?」

石像のような無表情で目の前の光景を傍観しているジークフリートを、ユスターシュはものめずらしそうにじろじろとながめる。


「興味があるなら、こいつを好きにしろ」

と、キリの身代わりに、ラグナードが白い翼の天の人を兄に向かってつきとばした。


「男はキライよっ!」

生け贄のように差し出された銀髪の美少年とぶつかって、ユスターシュが悲鳴を上げた。

「近よらないでちょうだい!」

げし、とヒールでけられて、ジークフリートがよろめいた。


「えええ? オカマの人って、男が好きなんじゃないの?」

嫌悪の色をうかべ、色っぽい仕草で自らの肩をかき抱くユスターシュを見て、キリはますますわけがわからなくなった。


「やあね。オカマじゃないって言ってるじゃない」

ユスターシュは、獲物を狙う肉食獣の瞳をキリに向けて、



「アタシが好きなのは女のコ」



ぺろり、と舌なめずりしてそう言った。



「心も体も男の人で、女が好きなのに、そんな格好をしてるの?」

キリは、美女の姿の宰相を見つめた。

「なんで?」

ぱちぱちと大きな目をまたたいて、

それから、城へ来る前に王都アルマンディンでラグナードから聞かされた話を思い出して、ぽんと手を打った。


「そっか、わかった!」

うるわしい宰相様を見上げて、キリはにっこりとほほえんだ。

「ビョーキなのね」


「ちょっと! このコ、かわいい顔してなんてコト言うのよっ!?」

ユスターシュが泣きそうな顔でさけんだ。
< 226 / 263 >

この作品をシェア

pagetop