キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「健康そうだが……」
それで健康状態がわかるのか、動物のように鼻をくんくん動かしてユスターシュのにおいをかいで、ジークフリートが言った。
「病気なのか?」
「違うわよっ」
涙目でユスターシュが否定した。
「え? 違うの?」
キリはきょとんとなる。
王都アルマンディンで同じように女装した少年を目撃したとき、
ラグナードは、この国では病弱な人間が死神の目をあざむくために男女逆の格好をする風習があると語っていた。
王族であるラグナード自身も幼いころは女装していたという話で、
だからキリはてっきり、このラグナードの兄もそうなのではと考えたのだが。
「そうだ、病気だ病気。心のな」とラグナードが冷たく言い放った。
「ちょっと! ラグ!」
「こんな変態は放っておいて、行くぞ」
文句を言う兄を無視してラグナードがすたすたと歩き出し、キリとジークフリートもそれに続いた。
病気の宰相の横をすり抜けるとき、上空の冷たい夜風が渡り廊下を吹きぬけて、
手入れのゆき届いた長い長い暗色の赤毛が、ふわふわとなびいた。
ふと、そこにあったものにキリの目がとまる。
印だ。
ラグナードのほっぺたにあるものと同じ、うねうねと曲がりくねった図形──。
長い髪の毛で隠されて見えなかったが、
ガルナティス王家の者であることの証が、宰相の白い右の首筋にも刻まれていた。
その刻印の色は……
「なんていうか、あんまり似てない家族だね」
渡り廊下を通り抜け、
宮廷魔術師の研究棟だという建物の中を歩きながら、
キリは脳裏に描いたあでやかな宰相と、先を行くラグナードの後ろ姿とを見くらべて率直な感想を述べた。
まさかラグナードに、あんな強烈な兄がいるとは、キリはまったく予想していなかった。
当然、
あんなやつと似ていてたまるか、というセリフが返ってくるかと思いきや、
「……そうだな」
王子様はなぜか沈んだ声でそう返してきた。
「あれ?」
キリは少し意外な気がして、ラグナードに追いついて横顔をのぞき見た。
「わたしマズいコト言った……?」
ラグナードは黙って、前方をにらみつけるようにして歩いている。
そう言えば、とキリは思う。
執務室で会った王様も、
今の宰相も、
あの血の繋がった母親も、
ラグナードとはあまり似ていない。
どことなく似ている気はするのだけれども、家族にしては──
──似ていない。
どうしてそんな風に見えるのだろうと思って、
キリは、ラグナードの色の薄い紫色の瞳や、灰色に近いブロンドの髪の毛を見上げた。
そうかと納得する。
あの国王陛下も、
宰相閣下も、
赤い髪の毛で、
冷たい母親は、
ブラウンの髪の毛にヘーゼルの瞳だった。
話に聞いたとおりならば、王様や宰相とラグナードの母親との間に血のつながりはないはずだが、
むしろこの三人のほうが家族に見える。
容姿のせいだ。
ラグナードの家族だから、キリはなんとなく、
彼と同じような色の薄いプラチナブロンドや薄い色の瞳をした人間たちを想像していた。
「母上は俺のこの容姿が、よほどお嫌いなんだろうさ」
という、先ほどのラグナードの言葉がキリの耳でこだました。
ラグナードの髪や瞳の色は、これまで会った家族たちの中で一人だけ異なっているのだ。
それで健康状態がわかるのか、動物のように鼻をくんくん動かしてユスターシュのにおいをかいで、ジークフリートが言った。
「病気なのか?」
「違うわよっ」
涙目でユスターシュが否定した。
「え? 違うの?」
キリはきょとんとなる。
王都アルマンディンで同じように女装した少年を目撃したとき、
ラグナードは、この国では病弱な人間が死神の目をあざむくために男女逆の格好をする風習があると語っていた。
王族であるラグナード自身も幼いころは女装していたという話で、
だからキリはてっきり、このラグナードの兄もそうなのではと考えたのだが。
「そうだ、病気だ病気。心のな」とラグナードが冷たく言い放った。
「ちょっと! ラグ!」
「こんな変態は放っておいて、行くぞ」
文句を言う兄を無視してラグナードがすたすたと歩き出し、キリとジークフリートもそれに続いた。
病気の宰相の横をすり抜けるとき、上空の冷たい夜風が渡り廊下を吹きぬけて、
手入れのゆき届いた長い長い暗色の赤毛が、ふわふわとなびいた。
ふと、そこにあったものにキリの目がとまる。
印だ。
ラグナードのほっぺたにあるものと同じ、うねうねと曲がりくねった図形──。
長い髪の毛で隠されて見えなかったが、
ガルナティス王家の者であることの証が、宰相の白い右の首筋にも刻まれていた。
その刻印の色は……
「なんていうか、あんまり似てない家族だね」
渡り廊下を通り抜け、
宮廷魔術師の研究棟だという建物の中を歩きながら、
キリは脳裏に描いたあでやかな宰相と、先を行くラグナードの後ろ姿とを見くらべて率直な感想を述べた。
まさかラグナードに、あんな強烈な兄がいるとは、キリはまったく予想していなかった。
当然、
あんなやつと似ていてたまるか、というセリフが返ってくるかと思いきや、
「……そうだな」
王子様はなぜか沈んだ声でそう返してきた。
「あれ?」
キリは少し意外な気がして、ラグナードに追いついて横顔をのぞき見た。
「わたしマズいコト言った……?」
ラグナードは黙って、前方をにらみつけるようにして歩いている。
そう言えば、とキリは思う。
執務室で会った王様も、
今の宰相も、
あの血の繋がった母親も、
ラグナードとはあまり似ていない。
どことなく似ている気はするのだけれども、家族にしては──
──似ていない。
どうしてそんな風に見えるのだろうと思って、
キリは、ラグナードの色の薄い紫色の瞳や、灰色に近いブロンドの髪の毛を見上げた。
そうかと納得する。
あの国王陛下も、
宰相閣下も、
赤い髪の毛で、
冷たい母親は、
ブラウンの髪の毛にヘーゼルの瞳だった。
話に聞いたとおりならば、王様や宰相とラグナードの母親との間に血のつながりはないはずだが、
むしろこの三人のほうが家族に見える。
容姿のせいだ。
ラグナードの家族だから、キリはなんとなく、
彼と同じような色の薄いプラチナブロンドや薄い色の瞳をした人間たちを想像していた。
「母上は俺のこの容姿が、よほどお嫌いなんだろうさ」
という、先ほどのラグナードの言葉がキリの耳でこだました。
ラグナードの髪や瞳の色は、これまで会った家族たちの中で一人だけ異なっているのだ。