キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「あなた、キリっていったわね」と、打って変わった冷ややかな緑の瞳がキリを映した。
「庶民なのに、どうして貴族語で話してるの?」
「はい?」
とつぜん変わったお姫様の態度に、キョトンと首をかしげるキリを、
リーゼロッテは目尻をつり上げてにらみつけた。
「そのせいで、貴族じゃないかとかんちがいしたじゃないの」
リーゼロッテは、
キリに対して貴族に接するように言葉をかけたことがくやしくてならないというように、愛らしい顔をゆがめた。
「貴族でもないのに、リンガー・ノブリスをしゃべるなんてなまいきだわ」
キリは目を丸くした。
仲良くしたいとキリにほほえみかけてくれた王女様と同一人物とは、とても思えなかった。
「ああ、こいつは子供のころに、エスメラルダで育った魔法使いだからだ。
俺も知らなかったが、エスメラルダでは母国語がリンガー・ノブリスらしい」
お姫様ににらまれてなんにも言えないキリの代わりに、
ラグナードが説明した。
「エスメラルダの魔法使い!?」
お姫様の目の色が変わった。
比喩ではなく──
実際に、
緑色だった瞳がすうっと色を失い、
アンバーの色合いへと変化する。
キリはびっくりして言葉もなく不思議な光景を見つめた。
興奮して瞳の色が変わる人間もいると知ってはいたが、それを実際に目にするのは初めてだった。
「エスメラルダの魔法使いなんて!」
お姫様は、金に輝く狼の眼で、
小さな狼さながらにキリをねめあげた。
「じょうだんじゃないわ!
あなた、どうして兄様といっしょにいるのっ!」
あまりの剣幕に
キリが、狼にほえつかれた猫のように、みゃっ! と飛び上がった。
「リーゼ」とラグナードがたしなめる。
「だって、兄様……!」
「キリはエスメラルダを離れて、今はどこの国にも属さない在野の魔法使いだ。
霧のヴェズルング以来の、千年に一人の霧の魔法使いだから連れてきたんだ」
「えっ」
リーゼロッテが息をとめて、
琥珀色の瞳でキリをしげしげとながめまわした。
「ヴェズルング様以来の、霧の魔法使い──……」
王女様はめずらしそうに目をみはって、
こほんと咳払いをして、二つに分けてくくった赤い髪を気どった仕草で肩からはらった。
「貴族でもない人たちが、どうして兄様といっしょにいるのかしら?」
偉そうにたずねて、
わかったわ、とリーゼロッテは小馬鹿にした顔でうなずいた。
「兄様の召使いね」
「ちが──……」
口々に否定しようとするキリとジークフリートをさえぎって、
「ああ、そうだ」
ラグナードが首肯した。
「パイロープの奪還に手を貸した褒美に、俺の従者になることを許したんだ」
妹にそんな説明をしてから、
文句を言おうとするキリとジークフリートに、
「立場上、俺の従者ということにしておいたほうが都合がいいと言ったはずだ」
と、ラグナードはささやいた。
「そう、やっぱり」とリーゼロッテがなにやら納得して、
「あなた、さっきの話だけれど」
と、キリに言った。
「はい?」
何の話だかわからなくて、キリが首をかしげた。
「わたくしと仲良くするって話よ」
お姫様は腰に両手を当てて、フンと鼻を鳴らした。
「わたくしは、あなたと仲良くなんかしないけれど、あなたはわたくしと仲良くしなくちゃいけないのよ。いいこと?」
「……はい?」
「はい? じゃないわよ!
あなたは兄様の召使いなんだから!
この城で働く身分なら、わたくしの言うことも聞くの!」
目を点のようにするキリに向かって、
お姫様はまたまた瞳を金色にしてそんなことをどなった。
「わたくしと仲良くするのは、当たり前でしょ! わかった!?」
「でも、わたしは……」
キリは、さっさとヴェズルングの杖を見つけてゴンドワナに帰るのだと伝えたかったのだが、
小さな狼ににらみつけられて、だまった。
どうやらこのお姫様は、
キリがめずらしい霧の魔法使いだと聞いて興味津々で、本心では仲良くしたくてたまらない様子だった。
それなのに、どうにもそれを素直に口にするのががまんならないという風だ。
「……はい、よろしく?」
とまどいながらキリはもごもごと口にして、
お姫様は満足した表情で口の端をつり上げて、えらそうにうなずいて見せた。
「庶民なのに、どうして貴族語で話してるの?」
「はい?」
とつぜん変わったお姫様の態度に、キョトンと首をかしげるキリを、
リーゼロッテは目尻をつり上げてにらみつけた。
「そのせいで、貴族じゃないかとかんちがいしたじゃないの」
リーゼロッテは、
キリに対して貴族に接するように言葉をかけたことがくやしくてならないというように、愛らしい顔をゆがめた。
「貴族でもないのに、リンガー・ノブリスをしゃべるなんてなまいきだわ」
キリは目を丸くした。
仲良くしたいとキリにほほえみかけてくれた王女様と同一人物とは、とても思えなかった。
「ああ、こいつは子供のころに、エスメラルダで育った魔法使いだからだ。
俺も知らなかったが、エスメラルダでは母国語がリンガー・ノブリスらしい」
お姫様ににらまれてなんにも言えないキリの代わりに、
ラグナードが説明した。
「エスメラルダの魔法使い!?」
お姫様の目の色が変わった。
比喩ではなく──
実際に、
緑色だった瞳がすうっと色を失い、
アンバーの色合いへと変化する。
キリはびっくりして言葉もなく不思議な光景を見つめた。
興奮して瞳の色が変わる人間もいると知ってはいたが、それを実際に目にするのは初めてだった。
「エスメラルダの魔法使いなんて!」
お姫様は、金に輝く狼の眼で、
小さな狼さながらにキリをねめあげた。
「じょうだんじゃないわ!
あなた、どうして兄様といっしょにいるのっ!」
あまりの剣幕に
キリが、狼にほえつかれた猫のように、みゃっ! と飛び上がった。
「リーゼ」とラグナードがたしなめる。
「だって、兄様……!」
「キリはエスメラルダを離れて、今はどこの国にも属さない在野の魔法使いだ。
霧のヴェズルング以来の、千年に一人の霧の魔法使いだから連れてきたんだ」
「えっ」
リーゼロッテが息をとめて、
琥珀色の瞳でキリをしげしげとながめまわした。
「ヴェズルング様以来の、霧の魔法使い──……」
王女様はめずらしそうに目をみはって、
こほんと咳払いをして、二つに分けてくくった赤い髪を気どった仕草で肩からはらった。
「貴族でもない人たちが、どうして兄様といっしょにいるのかしら?」
偉そうにたずねて、
わかったわ、とリーゼロッテは小馬鹿にした顔でうなずいた。
「兄様の召使いね」
「ちが──……」
口々に否定しようとするキリとジークフリートをさえぎって、
「ああ、そうだ」
ラグナードが首肯した。
「パイロープの奪還に手を貸した褒美に、俺の従者になることを許したんだ」
妹にそんな説明をしてから、
文句を言おうとするキリとジークフリートに、
「立場上、俺の従者ということにしておいたほうが都合がいいと言ったはずだ」
と、ラグナードはささやいた。
「そう、やっぱり」とリーゼロッテがなにやら納得して、
「あなた、さっきの話だけれど」
と、キリに言った。
「はい?」
何の話だかわからなくて、キリが首をかしげた。
「わたくしと仲良くするって話よ」
お姫様は腰に両手を当てて、フンと鼻を鳴らした。
「わたくしは、あなたと仲良くなんかしないけれど、あなたはわたくしと仲良くしなくちゃいけないのよ。いいこと?」
「……はい?」
「はい? じゃないわよ!
あなたは兄様の召使いなんだから!
この城で働く身分なら、わたくしの言うことも聞くの!」
目を点のようにするキリに向かって、
お姫様はまたまた瞳を金色にしてそんなことをどなった。
「わたくしと仲良くするのは、当たり前でしょ! わかった!?」
「でも、わたしは……」
キリは、さっさとヴェズルングの杖を見つけてゴンドワナに帰るのだと伝えたかったのだが、
小さな狼ににらみつけられて、だまった。
どうやらこのお姫様は、
キリがめずらしい霧の魔法使いだと聞いて興味津々で、本心では仲良くしたくてたまらない様子だった。
それなのに、どうにもそれを素直に口にするのががまんならないという風だ。
「……はい、よろしく?」
とまどいながらキリはもごもごと口にして、
お姫様は満足した表情で口の端をつり上げて、えらそうにうなずいて見せた。