三毛猫レクイエム。

「白血病の疑いがあります。詳しいことは、骨髄の検査をして見なければわかりませんが、症状から見てほぼ間違いないかと思われます」
「白血……病?」

 私が、かすれた声を出した。慌ててあきを伺うと、あきは青ざめて医師を見つめていた。

「白血病って……先生、治るんですか?」

 何も言わないあきに代わって、私が尋ねた。私の中で、白血病は治らない病気というイメージがあったからだ。
 私の質問に、医師は少しだけ笑みを浮かべた。

「昔は白血病は不治の病とされていましたが、最近では随分治療技術が発達して、治る病気になってきています。ただ、患者さんによっては効果や副作用に個人差があるので、断言はできませんが」

 治る病気だと聞いて、私はそっと息を吐いた。私はそっとあきの手を握る。あきの手は、震えていた。

「明日、骨髄の検査の予約を入れますが、大丈夫ですか?」

 医師の言葉に、あきが唸った。

「明日は……レコーディングが……」
「あき、何言ってるの?ちゃんと検査して、白血病かどうか調べなきゃ……」

 私の言葉に、あきは唇をかんだ。

「わかった……」


 アパートに帰ってきた私達の間に、言いようのない暗い空気が流れていた。

「あき、きっと、何かの間違いだよ」
「……真子」
「絶対、骨髄の検査で、間違いだったってわかるから」

 私は、あきの手を握った。

「きっと、そうだよ」

 あきは、私を抱きしめた。その身体は、小刻みに震えていた。


 翌日、あきの検査の結果が出た。急性リンパ性白血病とのことだった。
 結果がわかっていたのか、あきはそれを受け止めたようだった。だけど、私の方がそうは行かなかった。
 明らかに、あき本人よりも私が動揺していた。

「真子、俺、治療に専念することになる。母さん達には言っておいたから。メンバーにも、ちゃんと言っておいた」

 入院のための荷物をまとめながら、あきはたんたんと私に告げる。

「バンドは公式発表はしないで活動休止することにした。俺が白血病なのは、関係者だけに知らせて、公表しないように頼んどいた」

 まるで、他人事のように作業をするあきと、受け入れられない私。
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