一億よりも、一秒よりも。
そのときの醜い感情はなんてさもしかったんだろうと今なら思う。

やっぱり若い子がいいのね、あんな中身のない女が。そんなくだらない、女のプライド。
だけどそれを破り捨てたのは、隣に現れたナユタだった。
 

たとえばそれが、カフェではなかったら。私はきっと軽蔑した目だけくれて去っただろう。
 
たとえばそれが、告白に近い熱を持っていたら。私はきっと冷めた瞳で断りの文句でも入れただろう。
 
だけどナユタのそれは、本当に、ただしかたないし、という湿度を持っていた。今帰ってももやもやするだけでしょう、と。

 
はっきり言うとそのとき私はナユタの名前すら覚えてなかった。

席にはいた。時折会話も聞こえてきた。だけど私とは遠く、かわした言葉も数えるぐらい。
顔が好みでなかったと言われればそうかもしれない。整ってはいたけれど、中性的で好みではない顔だ。
 
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