一億よりも、一秒よりも。
 *

赤が好きだ。
真朱、蘇芳、臙脂。色んな赤がある。そのどれもが好きで、だからミニクーパーは赤色を選んだのだ。
 
だけどやっぱり、隣の男は青のミニクーパーを選んだのだ。

「シノ、やっぱりピンストライプは入れるべきだよな」
 
夏木がもらってきたであろうカタログを見て、頭を悩ませている。
そもそも隣の席の奴が同じ車を買うことが腑に落ちないのだが、向こうも好きならば仕方がない。
それに俺のは古いミニクーパーだ。クラブマンとは形が違う。


「えー、先輩車買うんですか?」
 
通りかかった後輩の子が夏木のデスクを覗きこむ。
そういえば先日一緒に買い出しに行ったときに、彼女はドライブが好きだと言っていた。

「おう。まーなくても困んないんだけどさ、あったら色々楽しいじゃん」
 
その言葉に何かが音を立てた気がした。どこかで、聞いたことのあるフレーズ。
 
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