一億よりも、一秒よりも。
半分の人の流れに沿って、いつもとは違う駅へと辿りつく。
案内板を見なくとも、その駅までの料金は知っていた。
ポケットからちょうどの金額を放り込み、機械音の後に吐き出された切符を抜き取る。

人のまばらな改札。業務染みた駅員の声。快速電車を一本見送って、普通電車へと身体を滑り込ませる。
 
小さな鞄から音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを耳へと繋ぐ。
ビートルズ、ゴールデン・スランバー。

 
電車が駅を離れ、ビル群を抜けてゆく。
スピードを上げた車体は小刻みに揺れ、ドアにもたれかかった身体を僅かに揺らした。
思わず口ずさみそうになるのを抑えながら、窓の外に目をやる。
橙色に包まれた大きな建築物が、濃い影色を地面に落していた。
 
俺はそれを見つめながらビートルズを聞いて、開かない扉に身体を預けた。
 
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