一億よりも、一秒よりも。
だけど彼女がここを通るかどうかはわからない。
いつぞや聞いた、彼女の通勤路。今もそうかは知らないし、もしかしたら今日は違う道を通って帰るかもしれない。
 

それでももし、彼女がここを通ってくれたならば。キョウの帰り道ならば。
それを俺は偶然という言葉で飾ろう。
そしてその偶然が、二人の間に生まれたことを嬉しく思おう。
 

どうせ、恋だとか愛だとか、考えてもわからないのだ。
だったら、考えて通り過ぎてしまうより、捕まえてみた方が楽しいかもしれない。
 

イヤホンを耳から抜いて、音楽プレーヤーの音を最大にしてみる。
流れてきた微かなビートルズはあたりの音に紛れてもなお、そのメロディーを確かに奏でていた。
 
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