ONLOOKER Ⅳ



「床に落として、中身を溢して……滑って転んで、頭を打った……?」
「……それって」
「事故かもしれないって」
「なぁ、お前わかってんだろ」

痺れを切らしたようなシュンの声が、その言葉を遮った。
お前がわからないはずないよな、とでも言うような声色だ。
ナツは目を伏せた。

「ほら」

手近にあったタオルを被せて、シュンはその花瓶を持ち上げた。
そしてそのまま、逆さまにひっくり返す。
ぱたぱた、と、滴が数滴、落ちてくるだけだった。

「普通に落としたんなら、こんな溢れ方しねーだろ。こーやってわざわざ逆さまにして中身出さなきゃ、中に水も花びらも入ってるはずなんだよ」
「……シュウ先輩」

それ以上は言うな、というような、ナツの目線。
マサトはただただ傍観している。
コウキは、目を背けた。
シュンは、眉を寄せて、言った。

「誰かが中身をぶちまけたんだ。竹田を殴るために」

ヨリコが、まだ滲んできた涙を、セーターの袖で拭った。
ユカリは、口を手で覆っている。
ナオは、真っ青な顔を、シュンに向けた。

「殺人なんだよ」


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