ONLOOKER Ⅳ
「今二階で二年が襲われてても、俺たちも一年も全然気付かねーな」
「っ!? ちょっと、やめてくれ」
ぼそ、と呟いた言葉に、ユカリが大袈裟に肩を揺らす。
普段は大和撫子を絵に描いたような同級生のそんな姿に、シュンは呆れたように言った。
「バカ、冗談だよ。俺が犯人だったら、殴ったら真っ先に逃げるし。自分も一緒に閉じ込めるアホなんていねーだろ」
「……そう、だな」
竹田の死体を見つけてから、ユカリはずっとこんな調子だ。
いつもは聡明な彼女に似つかわしくない様子に、シュンは苛立つ。
「なにボーッとしてんだよ、お前まで」
「……ごめん」
「ったくよ……んでこんなことになってんだよ……。殺人事件ってどういうことだよ、意味わかんねぇ」
舌打ち混じりに、吐き捨てる。
シュンでなくても怒りたくもなる。
それほどまでに理不尽な状況なのだ。
部室には死体、塞がれた出口。
携帯電話が通じる渡り廊下への経路も、断たれている。
なにが楽しくて、夜の校舎なんかでこんなサバイバルゲームじみたことなんかしなくてはいけないのか。
「悠綺高校(ここ)って日本一のセキュリティなんじゃねーのかよ。教師殺されて生徒軟禁されてんじゃねーか。どうなってんだよ……」
いくら毒づいても、後ろをついてくるユカリは、ただ怯えたように体を縮こめるだけだ。
そのうち、窓の外の真っ暗闇に向かって、一人で話しているような気さえしてくる。