ONLOOKER Ⅳ



「それが間違いだったんだよ。だいたい、誰が望んでたよ、俺なんて」
「そんなことは、」
「俺の肩書きがほしかっただけだろ……もっと大人しい奴だったら楽なのにって、思わなかったかよ、てめーは」

ぱ、と顔を上げたユカリが、今すぐにでも泣き出しそうな表情をしていて、シュンは言葉に詰まった。
竹田の死体を見ても泣かなかったのに、だ。
居心地が悪くなって、シュンはさっさと部屋を出ようとする。
その背中に、声がかかった。

「待って」

小さな小さな声。囁くような、空気のような。
同時に、袖口が弱い力で引かれる。
溜め息を吐いて、シュンはそれを振り払った。

「シュ、ン……」

痛みに上げた悲鳴のような、ついに本当に泣き出したような声を上げて、ユカリは広い背中を見る。
手を伸ばそうとして引っ込めた、その背中が、不意に、くるりと振り返った。
長い腕が、伸びてくる。

「さっさと来いよ」

ユカリの手を浚うように掴んだ大きな手のひらに、彼女は、堪えきれなかった涙を一つ、溢した。
そしてもう一度、名前を呼んだ。


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