ONLOOKER Ⅳ

先生と生徒の雑談



 ※※※


「このシーン……いるか?」
「全くだ」

居吹が見ている台本を覗き込みながら、紅がうんうんと頷いた。

「いるでしょー」

さっきまでがつがつと窓ガラスに暴行を働く青年を演じていた准乃介が、別人のようににこにこと笑いながら言う。

「紅までなに言ってんのさ。これちゃんと伏線になってんだからね」
「そうなのか? 俺、最後まで台本もらってねーんだよ。あとのお・た・の・し・み! とか言いやがって」
「うちの映研部は秘密主義だからねぇ。」
「でも、だからって、こん……こんなに、」

裏声の居吹にはつっこまずにのほほんと言う准乃介に、紅が噛み付く。
さっきのシーンを撮り終えるまでに、NGテイクを十七回も出したのは、他でもない彼女だった。

「こんなに、なーに?」
「こん、なに……その」
「……いちゃいちゃ?」
「っい!? いいいいいちゃいちゃなんてしてない!」
「紅、紅、テンパりすぎ。ちょー面白いよ今」
「うるさいっ!!」

結局いつものように、理不尽な怒りは全て准乃介に向かう。
端から見れば完全に八つ当たりなのだが、それでも准乃介本人がにこにこと機嫌良さげにしているからか、誰も気にしないのだ。



< 38 / 138 >

この作品をシェア

pagetop