ONLOOKER Ⅳ



「あーあ、行っちゃった」
「沖谷よー、……お前、マゾ?」
「え? そうなのかなー?」
「ほんと怒んねぇよな、お前は」
「えー、だってかわいーじゃん? 紅が八つ当たりするのって、恥ずかしい時とどうしていいかわかんない時だけなんだよねぇ。俺、あの困った顔、紅の表情で四番目ぐらいに好き」
「……ちなみに聞くけど、三番目までは」
「うーん……泣き顔、怒った顔、笑顔」
「前言撤回。お前真性のドSだわ」

居吹の頬が、分かりやすく引き攣っている。
しかも泣き顔が一位かよ、というつっこみをするあたり、彼も見た目ほどはアブノーマルではないようだ。

「あ、あとねぇ、このシーン」
「あん? ちゃんと理由あんのかよ」
「俺が紅に冷たいままじゃ、色んなところから怒られるからだって」

そう言い残して、准乃介は次のスタンバイのために去って行ってしまった。

「色んなところって……どこだよ……」

去り際の准乃介の表情が、ちゃんと目付きが悪く気の短い“シュン”になっていたことに、役者ってすごいね、と思いながら、居吹は呟いた。
その問いに、答えをくれる人はいない。

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