ONLOOKER Ⅳ


ユカリが、衣擦れよりも小さな声で言う。

「シュン、もうやめてくれ」

この時、誰か一人でも顔を上げていたなら、シュンの顔に一瞬浮かんだ表情が、さっきまでの激情とはまるで反対のものであったことに気づいたのだろうか。
彼は、ただユカリを見ていた。
そして、一度思いきり眉を寄せて、言った。

「……ユカリ。言ってやれよ、お前のアリバイ」
「やめろってば……っ」
「じゃないと俺が犯人になっちまうらしいし? 俺に脅されて言ってんじゃないってはっきり」
「もう、いいから……!」

マサトは、不意に顔を上げた。
ナツを見ると、彼もまた、シュンとユカリのやり取りを訝しげに見ている。

なにか、おかしい。




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