ONLOOKER Ⅳ
布巾についた血痕は、確かに酸化して、茶色っぽく色が変わりかけていた。
しかしよく見れば、一部の血痕は茶色く乾きかけているのに対して、まだ黒ずんだ赤を保っているものが、その上に重なるように付着している。
それは、出血した時間のズレを物語っていた。
「ユカリ先輩が会った竹田先生は、すでにナオが殴ってた。花瓶の中身も、もう床にぶちまけられてたんじゃないですか」
「えっと……よく覚えてない……」
「気が動転してて気付かなかったんですかね……でも、布巾が少し水で濡れてるんです」
ユカリは「え?」と視線を上げたあと、すぐにそれを泳がせて、「あぁ……」と声を出した。
「そう……だ、血を、踏んでしまって。足跡を、消そうとして」
「それで、床を拭いたら、布巾が濡れたんですね。じゃあやっぱり、その時にはもう……」
竹田の髪は、暗い赤だ。
その上ナオが殴ったのは後頭部だったために、気付かなかったのだろう。
女子生徒であるユカリなら、竹田と二人になった瞬間に警戒しはじめていて、ろくに相手の顔を見ていなくもおかしくない。
飛び散った血痕はナオが拭いてあったのだから、なおさらだ。