気がつけば愛でした


「それとも待ち合わせ場所にでも?」



静奈は社長の携帯に着信があったことを告げる。


「あ~…、いや、家に帰るわ」

「珍しいですね?」

「うん、今日は他の子と約束があるから。」



静奈は呆れて思わず口が開いてしまった。

先約ですか。

静奈はチラリと隣の高柳を見るが、高柳は素知らぬ顔で窓の外を眺めたままだ。

言われた通り、社長を自宅まで送り届ける。



「律も送ってやって。静奈ちゃんは車、乗って帰っていいから。」



そう言ってマンションの中に消えていった。

車は公用車だ。時間的にも会社に置きに帰るより、直接帰った方が確かに楽である。

静奈はさっきから黙ったままの高柳を振り返る。


「高柳さん…「降りて。」

「え?」

「俺が送るから。」



そういってさっさと助手席を降りる。静奈もつられて慌てて降りた。



「あの?」



運転席の高柳を見上げる。



「何?ちゃんと送るから心配すんな。」

「いえ…あのもしかして 高柳さん、会社に戻るんですか?」



まさかと思って聞いてみる。車の時計は20時を回っている。


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