銀棺の一角獣
「あれに名は存在しない。魔に魅入られた時に、リンドロウムの森に住まう俺たちは決めたんだ。あいつの名前を剥奪する、とな――許されることではないから」

「名前を剥奪……」

「魔に魅入られるだけならまだ許せたさ。それだけなら今までに前例がないわけじゃない。望むなら、魔の者たちが住む世界に行けばすむだけのこと。祝福はできないにしても、穏やかに見送ってやったさ」


 ぱたりぱたりとティレルの尾が揺れる。ティレルはそうしながら、再び視線を敵陣へと向けた。


「けれど、あいつはやりすぎた。人を食らい、魂を飲み込み――今だって、ライオールの魂まで我が物にしようとしている。それは――俺たちにとっては禁忌だ。リンドロウムの森の奥で静かに、人とは最低限の関わりだけ持って暮らしてきたのだから」

「わたしたちとあなたたちが接するのはいけないことなの?」


 わずかにティレルは口元を動かした。
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