銀棺の一角獣
決戦の日
 アルティナは、婚約者を見つめた。彼はこんなところにいるべき人ではないのに。

 すっかり衰弱しきっているキーランは、自分の足で立っているのも難しくて、肩を借りている若い神官に完全に身をまかせていた。


「そのお身体で城壁へ行くだなんて無理です」


 アルティナはそう言ったけれど、キーランをとめることはできなかった。


「では、輿を用意させますから……せめて、移動はそれで」


 今から彼のために居心地のいい場所を用意するのは、白状してしまえば、兵士たちの負担を増やすだけなのだけれど。父に対する揺さぶりなのだと言われれば、それ以上反論することはできなかった。

 滅多に使われないが、年に数度、輿が利用されることがある。それは、王族たちが民と触れあう機会に使用されるものだった。馬車に近づくことはできないが、輿に乗っている時は、誰でも近づくことができる。

 国王や王女の手を握り、口づけ、時には自家製の焼き菓子や果物、庭の花といった素朴な贈り物から、豪華な宝飾品まで投げ入れられることもあった。
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