銀棺の一角獣
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 以前は、連行されるようにして連れて行かれた旅路だけれど今回は違う。アルティナは用意させた馬車の中でゆったりと座席に背中を預けていた。


「アルティナ様、そろそろ次の休憩場所に到着予定なのですが」


 馬車の側に寄ってきたルドヴィクが声をかける。彼の他に二十名の騎士たちがアルティナの護衛として付き添っていた。
 全員まばゆく輝く鎧を身につけている。葬儀の席には弔辞用の騎士団の制服で参加予定で、全員制服持参だった。


「――明日には、王都に到着するわね」


 アルティナがそう返事をした時だった。


「……キーラン様です。アルティナ様」


 アルティナは馬車を停車させた。そしてルドヴィクの手を借りて降り立つと、向こう側からかつての婚約者がやってくるのが見えた。


「アルティナ! ルドヴィク! 二人とも元気だった?」


 戦争が終わった直後には半病人のようだったキーランも、今ではすっかり元気を回復していた。もともと武芸は得意ではないから、今後は文官としての修行を始めるのだという。


「わたしたちは元気です――キーラン様も、以前よりお元気そうで……何よりです」


 父である国王を見送った直後だけに、元気一杯とは言える状況ではない。アルティナは控えめな笑みをキーランに向けた。
 キーランは、腕を伸ばしてアルティナを引き寄せた。ルドヴィクの前で堂々と抱きしめる。そこに流れている感情が、男女の愛情とは違う優しい何か、であることを皆知っていたから、誰もとがめようとはしなかった。


「ありがとう――父も君たちに感謝していたよ。あのまま、魔に飲み込まれていたら世界を滅ぼしかねなかったって――」
「そう……ですか」


 その生の最後の時は心穏やかであればいいけれど、と思ったけれどそれを問うことはできなかった。


「おい、来てやったぞありがたく思え」


 傲慢な声が聞こえて、三人とも銀に輝く一角獣が姿を見せたのに気がついた。


「あら、あなた直接王宮に出向くのではなかったの?」
「馬鹿言うな」


 ふん、とティレルは鼻を鳴らす。


「キーランが出迎えに来ているのに、姿を見せないわけにはいかないだろうが」


 と言う一角獣は、案外義理堅いのであった。
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