銀棺の一角獣
「わたしは……大丈夫だから」


 床の上に放置された彼の手を取り上げて、アルティナはそっと唇に押し当てた。


「わたしを愛しているのなら、どうか生き残ることを考えて」


 かすかにルドヴィクが頷いたような気がした。ひび割れた唇が、「愛しています」と声にならない言葉を紡ぐ。

 キスした手を彼の胸に置いて、アルティナは立ち上がる。


「あなたたちに……お願いがあります」


 アルティナは、騎士たちの目をまっすぐに見据えた。


「この国の人たちには逆らわないで。あなたたちをひどく扱わないよう、わたしからもお願いしますから――」


 アルティナはミラールの前に膝をついた。あわててミラールも彼女の前に膝をつき、立たせようとする。

 具合が悪いというように額に手を当てたアルティナは素早くささやいた。他の誰にも聞こえないように。

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