シャクジの森で〜青龍の涙〜
城の庭や道はすっかり雪が解けて渇いているとはいえ、木立の中にはまだまだ雪がうっすらと残っている。

その雪を割って、小さな芽が先をのぞかせていた。



「みて。シリウスさん、ほら、かわいい芽が出てるわ」

「はい。もう春が近いのだと思われます」



上に被っている雪をそっと退けると、芽だと見えたそれは葉の一部で、数枚の緑の葉が雪の下で逞しく育っていた。

もっとあたたかくなればこれがぐんぐん成長し、可憐な花をつける。

花の咲き乱れる春は、もうすぐそこまで近付いてきているのだ。



「エミリー様、そろそろお戻りになる時間です」

「え?大変。もうそんな時間なの?」



気付けばアランの塔から随分離れたところまで歩いてきていた。

少し急ぎ足で戻らないと、次の予定に間に合わなくなってしまう。


エミリーは少しの焦りを感じて、できる限りに脚を早めていると、進む先にメイド達が立っているのが見えた。

立ち話をしているのか、小道の真ん中ほどで留まったままで動く様子がない。

だんだんに近づくにつれ、その娘たちの会話が耳に届き始めた。



「ねぇ、どうする?こんなの、誰に言えばいいのかしら」

「んー、そうね。追い払って知らん顔しちゃえばいいのかも」

「それなら、あなたがしてよ。私は嫌よ。こんなの怖いもの」

「やっぱり、誰か人を呼んだほうがいいと思うわ」




まだ着こなれていないメイド服は新品同様で、どうやら新人さんのよう。

顔立ちも幼くて、ナミよりもかなり年下に見える。



「今年、入ったばかりなのかしら・・」



お城では一年に一度学校を卒業したばかりの子を数名雇い入れると、メイが言っていたことがあった。

以前“指導係になったこともあって、その時はもうとっても大変だったんですよ~”と、食後のお茶会の時に面白おかしく話してくれたのを思い出してしまい、クスリと笑みが零れる。


新人メイドは三人いて、皆が皆、チラチラと繁みの方を見ながら話をしている。

彼女たちが道を塞いでいることもあり、エミリーはとりあえず話しかけることにした。



「あなたたち、どうしたのですか?そこに、何かあるのですか?」



その甘く優しい問いかけの声に、皆が一斉に振り返って瞳を大きく見開く。

あたふたと急いで隅に寄り整列をして、居住まいを正した。



「王子妃様、お邪魔をし申し訳御座いません!!」


「いいのです。繁みの向こうに何があるのか、教えてもらえますか?」


「は、はい!王子妃様!あの、その中に、獣がいるので御座います!」


「え・・・獣、ですか??・・・そこに?」
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