シャクジの森で〜青龍の涙〜
意外な答えに驚いて、アメジストの瞳を瞬かせていると、シリウスがスススと前に進み出て華奢な身体を庇うように腕を差し出した。



「お前たち、それは本当か?」

「はい!護衛様。銀色の毛と鋭い爪をもつ怖ろしい生き物で、暴れれば大変危険なので御座います!」

「王子妃様にはお早くお部屋に戻られた方がよろしいかと存じます!」



三人が興奮したように次々とそう言うけれど、エミリーには信じがたいことだった。

この厳重な警備を誇る城庭に、そんな怖ろしい獣が侵入するなんて可能なのだろうかと思ってしまう。

けれど、このメイドたちが嘘をつく筈もなく―――――



「シリウスさん?」

「承知致しました。エミリー様、私が確認致します、なるべくお退き下さい。お前たち、エミリー様を囲んでお守りしろ。いいか、どんなことがあっても離れるんじゃないぞ」

「はい!!!」



新人メイドたちは声を揃えて返事をすると、真剣な面持ちでエミリーの身体をがっちりと囲み、シリウスに向かって準備万端とばかりに大きく頷いて見せた。

エミリーの周りに壁が出来、前の様子が見えづらくなる。



シリウスがソロリソロリと繁みの中に入っていく。

と。

間もなく、いろんな音がし始めた。


繁みを掻き分け枝や草を踏む音に、獣の唸り声のようなものも混じっている。

やはり本当に、怖ろしい何かがいるよう。


新人メイド達も恐ろしいようで、ジリジリと後退りをしていた。

なので、エミリーも必然的に後ろに下がっていると、狭い道なので繁みに身体が阻まれてしまった。

これでは何か出てきたとしても、素早くにげることが出来ない。

メイドたちに声をかけようとしていると、激しく格闘する音と、シリウスの声と、獣の鳴き声がほぼ同時に聞こえてきた。

その獣の声には、なんだかとても聞きおぼえがあるものに思える。



「でもまさか・・・そんなはずは、ないわよね・・・?」



ぼそっと呟いていると、シリウスがその獣の首を摘まみ、繁みの中から出てきた。

メイド達の隙間から見えるシリウスの様子は、髪飾りのように枝葉が髪にからまり、頬や手は傷だらけで、相当な闘いをしたように見える。

その手にある獣を、エミリーは信じられない気持で見つめ、メイド達の身体をそっと押し退けて前に進み出た。




「エミリー様、いけません。小動物ですが、何をするのか分かりません。危険で御座います」

「いいえ・・シリウスさん、放しても平気よ。暴れないわ。だって、この子は・・・・」




おいで・・・といいながら腕を差し出すと、その獣はシリウスの手の中からふわりと飛び移った。

大人しく体を丸め、ゴロゴロとのどを鳴らす。



「わたしのペットなのだもの。シャルル・・・どうしてあなたがここにいるの?」
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