シャクジの森で〜青龍の涙〜
久しぶりに感じるシャルルの柔らかさとぬくもり。



「シャルル、ちょっぴり重くなったみたい。ひとりなの?よくここまで来れたわね?」



故郷の両親が来ているという報せはないし、これから来るという予告もない。

いつから、どうして、ここにいるのかしら・・?



「ねぇ、シャルル?ここにいること、パパとママは知ってるの?」



語りかけながら艶やかな毛並みを優しく撫でると、シャルルはエミリーの心配なんてどこ吹く風な風体で大きな欠伸をし、小さな頭を細い腕に預けている。

ゆらゆら揺らしていたしっぽも丸めてしまい、完全に眠る体勢に入ったよう。



「シリウスさん、塔の規則は、なにかありますか?」

「動物に関するものは、今のところは何もありません。以前にあった小鳥の件と同様かと思われます」

「そう、よかったわ。お部屋に入れてもいいのね・・・でも、あなたがお部屋にいれば、帰ってきたアラン様がとてもおどろくわね?」



来てしまったのは仕方がないもの、多分叱ることはないと思うけれど、ちょっぴり困ったお顔をするかもしれない。

エミリーが何をしても、お城でトラブルが起きても、冷静沈着に対処をするアラン王子。

ごくたまに、何気なく話し掛けた時に動きがピタリと止まることはあっても、驚く顔なんて今まで一度も見たことがないのだ。

こんどはきっと、今までにないめずらしいお顔を見せてくれる。

そう考えると、いろいろ心配や不安はあれどもちょっぴり楽しくなってしまう。



「エミリー様。お時間がありません。そろそろ行かなければ、講師殿の頭に角が生えるでしょう。そのペット様は私がお預かりし、アラン様に報告致します」



さ、ペット様をこちらに。

そう言って差し出されるシリウスの手を、エミリーはじっと見つめた。

幾筋もみみず腫が出来ていて、男らしく浮き出た血管が傷付いていないのが不思議なくらい。

それに頬にも引っ掻き傷が沢山あって何とも痛々しくて、部分的だけれど血が滲み出ている状態だった。

木枝のせいもあるだろうけど、大半はシャルルの爪の仕業なのだ。



「いいえ。シリウスさん、今からの予定はキャンセルするわ。講師さんには事情を説明して、後日に調整してもらいます。アラン様にはわたしがしらせるわ。それより先に、医務室に行きましょう。そのキズの手当てをしないといけないもの」


「いえ、こんなのは大したことありません。私のことは気になさらず様願います」

「ダメです。すぐに医務室に行きます。・・・えっと、そう。これは命令なのです」



エミリー様、それはいけません。と言うシリウスの声を聞き流し、エミリーは政務塔の玄関へと向かった。
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