シャクジの森で〜青龍の涙〜
問いかければ、しっぽをくるんと回して応える。

どちらにしろ良い傾向だ。

メイたちも、猫に慣れてきたようなのだ。

まだ触れることは出来ないけれど、おっかなびっくりな感じが取れてきていた。

ギディオンでペットが受け入れられる日も、そう遠くないかもしれない。



「自由にお散歩できる日は、近いかもしれないわよ?」



そう言って笑いかければ、当の本人は興味なさげな様子で大きな欠伸をしている。

でも、自分の為に置かれた椅子が相当気に入ったようで、アランが出掛けてからずっとそこに座っていて、今日は一度も膝の上に乗ってこない。

エミリーが刺繍をしているのもあるだろうけれど、いつもは、動けなくて困るくらいに甘えてくるのに。



――――コンコン


『エミリー様、メイです。お茶をお持ちしました』


「はい。どうぞ」

「エミリー様、刺繍は進んでますか?一休みして、お茶をどうぞ。ここのメイドの子と仲良くなって、お菓子を手に入れてきたんですよ~」



テーブルの上に、赤いお花のティーセットが並ぶ。

こぽこぽと注がれるお茶からは、甘い薔薇の香りが漂ってくる。

これは―――



「このお茶、エミリー様がお好きだからギディオンから持って来たんですよ。きっと、飲みたくなると思いまして―――さぁ、どうぞ」

「ありがとう、うれしいわ」



二つお揃いのカップがそれぞれの前に置かれる。

流石に、いつも使ってる自分専用のカップまでは持って来なかったよう。

メイは、何だか良いカップだと緊張しますね、と言ってえへへと笑った。

ほわほわと揺れる湯気が、部屋の空気をほのかな薔薇の香りに染めていく。

こんな時間はひさしぶりだ。



「・・・そういえば、メイとのお茶会は、この国に来てから初めてね」



いつも夕食後に、仕事の終わったメイとのお喋りを楽しみながら飲むお茶。

結婚前から続いていることで、アランのお許しもある二人だけの習慣。

毎晩欠かさずしていたけれど、旅に出てからはまだ一度もしていないのだった。

互いに、話すことがたくさんたまっている。

特に、メイの方には。



「そうです。“メイ、エミリーと茶をせよ”とのお命じがなければ、きっと、ず~っと、出来ませんでしたわ。旅先でも、城にいる時とすることは全く変わらないんです。この国の器具がいろいろ使い勝手が分からなくて、却って忙しいくらいで・・・」
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