シャクジの森で〜青龍の涙〜
そう言って、メイは、うんざりといった表情でため息をついた。

同行メイドは若い子が中心で、メイが古参のほうなのだそう。

その中でも、王子妃付きで王子とのコンタクトが取りやすい理由からリーダーを任されたので、この城のメイドとの調整や他国のメイドとのやり取り、いろいろあって結構大変なのだと話してくれる。



「ほんと、侍女長がついてきて下されば楽だったのにって思います。でも!おかげでお菓子を貰える仲になったのは、すごい収穫です!このローズティも持ってきたかいがあるってもんです!ほら、エミリー様、お菓子をどうぞ。今、この国で流行ってるそうですよ」



すー・・とエミリーの前まで移動してくる可愛い花型のお皿には、四角い花の形を模した白いお菓子が乗せられている。

親指の爪ほどの大きさで、口に入れるとほろほろと崩れて爽やかな甘さがいっぱいに広がる。



「ん~おいしっ。エミリー様、これは当たりですね!」



メイは、心底美味しそうにして、両手で頬をおさえて幸せそうに笑う。



「そうね。初めて食べる味だわ」



この酸味は、少しヨーグルトが入ってるのだろうか。

アランも気に入りそうな味で、エミリーは食べさせてあげたくなった。

だって、工場土産のヨーグルトもとても喜んでくれて、美味しそうに食べてくれたのだ。

少しもらっておこうかと考えていると、メイがパシンと手を叩いた。




「そうそう、このお菓子をくれた子に聞いたんですけど。この四角いお花、この国では“魔よけ飾り”としても用いられるそうなんですよ。何でも、昔大風が吹いた時、この花を模した飾りがあった家だけは無傷だったとかで。それ以来事ある毎に飾ってるんだそうです」



―――魔よけ―――


ギディオンにはない習慣。雪花の泉のほとりに咲いていたというお花。

国の花でもあったこれは、今では魔よけとなっている。

形は違えど、ヴァンルークスの人たちには欠かせない大切なものなのだ。



「それから、風邪凪ぎ祭りは明後日だそうですよ。アラン様から聞きましたか?」

「えぇ。聞いたわ。一緒に見物してから出立するって。だから、とても楽しみなの。だからきっとメイたちもお祭りに行けると思うわ」

「そうですか!良かったです~。せっかくですもの、見て帰らないと損ですものね!」
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