シャクジの森で〜青龍の涙〜
アランとのお出掛け。

考えただけで、小さな胸がわくわくとした気持ちに満ちていく。

ニコル達と都街見物に行ったのも楽しかったけれど、それとは楽しみの質がまったく違うのだ。



「他に、希望はあるか?」



再び聞いてくれるということは、まだ大分日があるのだろう。

もし、出来るのなら、見たいものがある。

エミリーは、駄目もとで口にしてみることにした。



「あの、そうしたら、風凪ぎ祭りを見たいのですけれど・・・」

「風凪ぎ祭り、か―――あれは確か、三日後だったな・・・」



そう言ってアランは考え込んでしまった。

やっぱり日が合わないのだろうか。

出来れば、アニスが歌うところを見届けたいと思うのだ。

折角知り合いになって、お話を聞いのだから。

このままさよならなのは、心残りが大きい。

滝とは違ってすぐに返答がなく、やっぱりダメなのかと残念に思っていると、アランは口元に手を当てつつ言った。



「一つ確認するが、闇の中にいた女性は白かったのだな?」

「はい。白くて綿のようでした・・・それが?」

「そうか―――ならば・・・」



アランの中で、何かとても難しいことを考えているよう。

真剣な表情が暫く続く。



「歌を、聴くだけだぞ。そして、必ず、私と一緒に居れ――――」



そういえば、アランはあの時、何を考えていたのだろう――――



―――ぱんぱん。


・・・エミリー様・・・


―――ぱんぱん。



テーブルを叩く音がして、我に帰ったエミリーが目を上げると、メイがじーと見つめていた。



「あ、ごめんなさい。なんだったかしら?」

「もう、エミリー様ったら。心はもうどこかに飛んでますね~?聞いてますよ、午後、お二人で出掛けること」

「えぇ、そうなの。とても楽しみで・・・滝を見に行くのよ」

「滝ですか~また素敵なところに行くんですね。愉しんで来てくださいね!」



そんな場所に行くなら厚着をしてもらわないと・・・とぶつぶつ言いながらメイは紅茶を一口飲んだ。

その空色の瞳が、壁を見て大きく見開いた。



「あ!私、そろそろ仕事に戻ります!ナミが悲鳴を上げてる頃だわ。あ!これ残しておきますから、また食べてくださいね」

「えぇ、ありがとう・・・メイ、忙しいわね?」

「はい~すみません!!ゆっくり出来なくて・・・。あの、午後にまたお支度に来ます」



時計をチラッと見て、メイはテキパキとテーブルの上を片付けて、いそいそと部屋を出て行った。
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