シャクジの森で〜青龍の涙〜
メイが慌ただしく去って行く背中を見送ったあと、エミリーは小さなため息を吐いた。

何だか、部屋の中がやけに静かだと感じてしまう。

こんなに孤独感が強いのは、旅先だからだろうか。それとも、この国だからなのか。

ギディオンと比べてしまうと、この城はとても静かだと思える。

働く人も少ないようで、あまり人の声がしないのだ。

じっと耳をすませてみても、風が窓を揺らすカタカタ音だけがして、寂しさをいや増してくる。

まるで、ここにいるのは、自分一人だけのよう――――


・・・ちりんちりん・・・


「ニャー」


シャルルが椅子から下りてエミリーの足に体をすりよせてきた。


「ニャー」

「ごめんなさい。あなたが、一緒にいたわね?」



忘れていたわけではないわ。

微笑みながら抱き上げて、鼻先を擽るように指先で撫でれば、シャルルはゴロゴロと喉を鳴らして気持良さそうに目を瞑る。


テーブルの上には、カップ一杯の紅茶と数個のお菓子が残されている。

気を遣ってくれたのだろう、カップには、並々と溢れそうな程に紅茶が入っている。


メイはいつもそう。

ゆっくり時間がとれなかった日は、こんな風にお茶とお菓子をしっかり残していってくれるのだ。



「やっぱり、お茶会は夜でないとダメね・・・でも、久々でうれしかったわ」



本当はもう少しお喋りしたかったけれど、忙しい中付き合ってくれたことに感謝するエミリー。

自分の他は皆仕事をしているのだ、我が儘を言ってはいけない。

それに、今日は楽しみもあるのだから。


不意に、シャルルが腕からすり抜けて下におりて窓際の椅子に移動したので、エミリーも傍に行って景色を眺めながらゆっくりと紅茶を飲んだ。

眼下に広がる景色は変わらずに美しく、空を見上げれば白い雲が流れていく。



「とても良いお天気ね。お出掛け日和だわ。アラン様は、今頃何をしているかしら。もう城を出たのかしら――――」


今日は、皆で視察に出ると言っていた。

毎年の恒例のようで、変化がないことを確認しに行くらしい。

何を見に行くのかは、知らないけれど。




『これが最後の仕事だ。終わればすぐに戻り共に散策に参るゆえ、今日は何処にも出ず待っておれ。できれば、シャルルの散歩も控えて欲しい。良いな?』



朝、アランはそう言ってお部屋を出ていった。

いつ頃帰ってくるのか、どんな素敵なところに連れていってくれるのか、待ち遠しく思う。



「きっと、午後になったらすぐだわ。帰ってくる前に、お道具を片付けておかないと」
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