シャクジの森で〜青龍の涙〜
――――リシェールさん・・・。


髪を撫でるさわさわと吹く風がなくなり、聞こえていた森の音もぱったりと消えた。

代わりにふかふかの毛布とさらりとしたシーツが肌にあたって、どちらが現実なのか一瞬迷う。

お腹のあたりでは、ふわふわモフモフの毛のかたまりがモゾモゾと身動ぎをしてて、くすぐったくてあたたかくて柔らかくて、とても心地いい。


こちらが本当の世界だ。

やっぱり今のは夢だったのだろうか。

美しい歌声も身体に受ける感覚も、全てが現実味を帯びていたのに。

もしも夢ではなく本当なのだとしたら、どうしてそんなことが・・・それに、あれは・・・そして・・・あの場所は―――――・・・。



瞼の向こうに明るさを感じたエミリーは、ゆっくりと目を開けた。

すると、窓から射し込む光で部屋の壁は金色に染まっていた。

もう、朝なのだ。



「アラン様、おはようございます」



谷であろう方角を見て、テントで一夜を明かしたアランを思う。


よく眠れただろうか。

疲れていないだろうか。

昨夜は食事をとったのだろうか。


いろいろと心配になってしまう。

アランはとても忙しいと食事を抜いてしまうことがある。

エミリーが城に来てからはきちんととるようになったけれど、それでもたまにお昼を抜いてしまうことがあるのだ。



「もしかしたら、寝ていないかもしれないわ。様子を見に行きたいけれど、ダメよね・・・邪魔してしまうもの」



帰りを遅くさせては元も子もないし“来てはならぬ”と叱られてしまう可能性が高い。

城で待つのが、一番なのだ。




ぱたん・・・と、そっと扉を閉める音がしたあとに静かな足音がベッドに近づいて来て、無機質な天井がメイのニッコリ笑顔に変わった。



「エミリー様。おはようございます。目覚められていますね!アラン様が居られないのに、凄いですわ!」



褒めてるのかそうでないのかよく分からないことを言って、メイはいつも通り朝の準備を始める。

それに対し、エミリーは何て返せばいいのかわからず、曖昧に微笑みながら身体を起こした。


そう。いつもアランに起こして貰ってることを、メイは知っているのだ。



「メイ、ナミ、おはよう」



いろいろ考えながら出した声は普段よりも小さくて、おまけに少し掠れていた。

急いで口を押さえて声を整えようとしたけれど既に遅く。

メイは敏感に反応して、ドレスを準備する手をぴたりと止めた。



「エミリー様、もしかして、眠れませんでしたか?それに、風邪を召されたのではないですか?」
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