シャクジの森で〜青龍の涙〜
ふるふると震える唇が、小さな声を紡ぎだし、静寂を破る。



「ぁ、いま・・・なんて、言ったのですか?」

「視察に向かった日、アランは、谷に落ちたんだ」



声にならない息が漏れ、アメジストの瞳は何かを求めるように空を彷徨う。



「そんな・・・谷・・に・・おちたの?ほんとうなの?・・・パトリックさん、うそでしょう?」

「ルーベンのレオナルド王子を陣頭に、我が国の兵はもちろんサディル国の協力も得て、皆で探している。だが、落ちたであろう近辺から広範囲に渡り捜索しているが、未だ、見つからないそうなんだ」

「うそ・・・うそよ。だって、わたし、お手紙をかいたわ。おかしもいれたわ・・・食べてくださいって、お帰りをまってますって―――」




―――かたん・・・。



椅子が軽い音を立てる。

エミリーはゆっくりと立ち上がった。




「そうだわ・・・わたし、いかなくちゃ・・・」



呆然と呟くと、エミリーはふわりと駆けだした。


パトリックの横を通り真っ直ぐに部屋の扉に向かっていく。

その様は草原を吹く春風のように軽くて、今にも羽が生えて飛んで行きそうで、パトリックは一瞬見惚れてしまう。

が。



「エミリー!待つんだ!」



ハッと我に帰ってすぐさま立ち上がり追いかけ、か細い腕をがしっと捕まえて自らの方へ引き寄せた。

どこにも行かせてはならない。

例えそれが、アランを探すためであっても。

そのままエミリーの両方の手首を捕まえ、動きを封じた。

その際に、手の甲の包帯が目に入り、唇をぐっと引き結ぶ。

ヘルマップから聞いた通りだ――――



「いやっ、嫌っ、はなして!アラン様は、やくそくしたの。いっしょに散策に行こうって。だから―――」



手を振り解こうと必死にもがくエミリー。

けれど、力強い手は、押しても引いてもびくとも動かない。



「しー、エミリー・・黙って。しー・・・静かに。いいかい?落ち着いてくれ」


「やっ、アラン様をさがしに行くの!パトリックさん、はなして!・・お願い・・・おねがい・・・はなして・・・」
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