シャクジの森で〜青龍の涙〜
長い時を経て、パトリックはエミリーの部屋から出た。

扉を静かに閉めて俯き、深いため息を吐く。

廊下には、シャルルを抱いたアニスと、涙顔のメイとナミ、辛そうに唇を噛むシリウス、それに、ヘルマップがいた。



「・・・漸く、落ち着いてくれたよ。彼女は今、眠っている。メイ、ナミ、君たちは交替で傍に着いていてくれ」

「はい・・パトリック様」



二人はたがいに頷き合うと、一緒に部屋の中に入って行った。

その後を追うように、アニスもシャルルを連れて中に入って行く。



「シリウス、ここの守りをしっかり頼む。君が指揮を取れ。私は、谷に行ってくる」



パトリックの命にシリウスは無言で頭を下げ、他の兵士たちと調整をするべく下に降りて行った。



「ですが、パトリック様、一睡もしておられないのではないですか。少しお休みなった方が良いのでは?」



ヘルマップの進言に対しパトリックは首を横に振り、眠ってないのは私だけではないのだよ、と言って微笑んだ。


大半の兵を守りに残しジェフ以下3名を引き連れて谷へと向かう。

パトリックの胸中には、炎が激しく燃えていた。

駆ける馬が何とも遅く感じる。

ウォルターが放った早馬の伝令で、谷に落ちたのは“賊の攻撃を受けて”と聞いていた。

それが―――



『わ、私は、何もしていませんわ・・脅すだけだと・・・まさか、あんなことになるなんて・・・』



謁見した際、ビアンカは、パトリックとヘルマップを見て恐怖に震えるような表情をし同じ様な言葉を繰り返した。

最終的に、聞きだした話は何ともお粗末なものだった。



『あのお方が放った矢から、私が身を呈してお救いする筈だったんです』



矢は1本だけの筈で、まさか、あんなに沢山降ってくるとは思わなかったと。

合図がある筈だったのにそれもなかったと。

震え声で話した内容から察するに、アランに対し恩を売る計画だったと思えた。

側室に入る足掛かりにするためだと―――



「そんなことの為に。全く!何とも浅はかなものだ!!」



ビアンカの言う“あのお方”は、姿をくらましどこに行ったのか分からないという。

恐らく目的を達したのを確認し次の機会を虎視眈々と狙っているのだろう。

目的は分かっている、エミリーを奪う気だろうが、そうはさせない。



「この私が、いる!」



ビアンカは城に幽閉し、後に、後見国間で議を行う予定だ。

パトリックはギリリと歯噛みして行き場のない怒りをやり過ごし、馬に鞭をあてた。
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