シャクジの森で〜青龍の涙〜
時は経ち、翌日。

エミリーはぼんやりと椅子に座っていた。

目の前にあるテーブルには、手をつけられていない朝食がある。


ほかほかと湯気を出すスープ、焼きたての香ばしい香りを放つパン、新鮮な野菜をふんだんに使ったサラダ、そして、ヨーグルト。


エミリーは立ち昇る湯気をただ見つめ続ける。


今日は“風凪ぎ祭り”の日。

アランと一緒にアニスの歌を聴く筈だった日だ。



「エミリー様、せめてスープだけでもお飲みください。昨夜も何も召し上がっておられないではないですか。お身体を壊してしまいます」

「メイ・・・・ごめんなさい・・・なにもたべたくないの・・・」



食欲がない。

食べる気が起きない。

だって、アランが前にいないのだ。

何も食べてないのは、アランだって一緒なのだ。

見つからないなんて、どこでどうしているのだろう。



「・・・アランさま」



ぽつんと呟くと、メイとナミが鼻をすする音がしてノックの音もした。

メイが出て何者かと言葉を交わしているのが、ぼんやりとエミリーの耳に届く。

間もなく、前の椅子が、かたん・・と音を立てて動き「エミリー、失礼するよ」とその人は座った。



「何も食べてないと聞いたんだが、どうやら本当のようだね」

「パトリックさん・・・」

「困ったな。アランが戻って来た時、君は、やせ細った姿を見せる気かい?」

「もどって来たとき・・・?」

「そうだ。君に元気がないと、アランが哀しむぞ。さぁ、口を開けて」



パトリックはスープをすくってエミリーの口元に運んだ。

堅く閉じられていた唇がゆっくり開き、それを受け入れる。

何度かそれを繰り返していると、エミリーの頭がだんだんはっきりとしてきた。



「パトリックさん、お願いがあるんです」

「なんだい?」

「わたしを、谷に連れて行ってほしいんです」

「それは、ダメだ。アランが何故、君にこの国の情報を教えなかったのか、分かるかい?それは、君にとって危険な場所が多いからなんだ。出来るだけ、君が興味を示すのを避けたかった。谷も泉も、あそこは―――」

「いいの。おねがい、それでも行きたいの。遠くから見るだけでもいいの。おねがい、パトリックさん。でないと、わたしの気がすまないの。眠れないの。それに、探していただいてる方々を労いたいの」



パトリックは考えた。

このまま駄目だと禁じても、谷に想いを馳せれば同じことだと思える。

それよりは、一度現実を見せた方がいいかもしれない。

エミリーの気がすめば、国への帰途もスムーズだろう。



「わかった。連れていこう。ただし、これを全部食べたなら、だ」



エミリーは朝食の皿をひととおり眺め、いただきます、と神妙な顔で祈りフォークを手にした。
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