シャクジの森で〜青龍の涙〜
「―――あれが、“風の谷”」



ずきんと、胸が痛む。

馬に揺られて向かう先に、切り立った崖迫る場所があり、幾つかのテントが所狭しと建てられている。

何となく3か所に分かれているのは、ギディオン、ルーベン、サディルと別れているためだろうと思えた。

その向こう側は一寸先も見えないほどの霧が立ち込め、真っ白に見える。



「あんなところに、いるなんて」



愕然として呟く。

近付くにつれ、はっきりと見て取れたその谷は、テントがある側と向こう側ですっぱりと見事に空気が分かれていた。

まるで、入口に大きなカーテンが下がっているような。

谷の中もあれでは、探す方も迷子になってしまいそう。

なかなか見つけることが出来ないのも、分かる気がした。

祈らずにはいられない。



「アラン様・・・どうか、どうか、無事でいて―――」



エミリーはまわりをキョロキョロと見廻してみた。

草がたくさん生えていたりして様子が少し違っていたけれど、ここに来るまでの道のりには見覚えがあったのだ。

耳に届く川のせせらぎの音にも。

だとすれば、祈るのに最適なところがある―――


そう思ったけれど、それらしき影はどこにもない。


スタン・・と、馬からおりてエミリーに手を伸ばすパトリックに訊ねる。



「パトリックさん、近くに、神殿があるのではないですか?」

「神殿なら、あの木立の向こうに―――・・・ん?君は、どうしてそれを知ってるんだい?」



エミリーは木立の辺りを見やったあと、手にしていた包みを鞍の上に置き、訝しげな表情を浮かべるパトリックに身体をゆだねた。



「・・・前に、夢で見たんです。ここまで来るのに通った道が似てたものですから。近くに、立派な神殿があったわ」

「夢だって?それは―――」



「エミリー!」

「パトリック様!エミリー様!」



呼び掛けられて二人して振り向けば、レオナルドとウォルターが走ってくるのが見える。



「エミリー様!大変申し訳御座いません!私が傍に居ながらお助けすることが出来ず・・・いかなるお咎めも受ける覚悟です!」



ざっと跪き、ウォルターが土に擦らんばかりに頭を下げる。

いつもビシッとしているウォルターの服装は、あちこち泥で汚れて、枝に引っ掛けたような綻びもある。

呼び続けているためだろう、声も枯れていて、かなり疲弊しているようだった。

きっと、眠る間も惜しんで率先して動いているのだ。




「ウォルターさん、どうか、立ってください」



エミリーは小刻みに震える肩にそっと手を置いて、起立を促した。
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